八ヶ岳 大雪でルンゼとバリエーション敗退
 


2022年1月5日(水)〜9日(日)
 メンバー:佐藤 博さん(65歳)、藤原 豊さん(63歳)、小田中 智(66歳)
 ルート:6日/美濃戸山荘〜赤岳鉱泉〜裏同心ルンゼ〜大同心ルンゼ〜赤岳鉱泉テント
     7日/テント〜行者小屋〜阿弥陀北西稜取付〜文三郎尾根〜中岳〜行者小屋〜テント
     8日/テント〜赤岩の頭〜硫黄岳〜テント〜美濃戸山荘


 八ヶ岳はアプローチが短く手軽に登れる山域で、冬でも登山口まで車で入れるのが魅力だ。登山基地となる赤岳鉱泉からは主峰の赤岳も短時間で登れ、阿弥陀岳から硫黄岳の縦走も1日で可能だ。
 冬は気温が低く風が強いのが基本の山域だ。そのおかげで沢の滝は氷瀑となり、ルンゼには大小の氷瀑が点在しアイスクライミングのメッカである。また、横岳、赤岳、阿弥陀岳の壁や岩稜はバリーションルートが多くあり、アイスクライミングと岩の登攀を同時に味わえるのは大きな魅力だ。

 2年前から60歳の手習いとして岩と氷を再開したので、新年度の幕開けとして八ヶ岳のアイスクライミングとバリエーションを計画した。
 ベースは赤岳鉱泉のテント場とし、裏同心ルンゼ、阿弥陀北西稜、ジョウゴ沢の氷瀑と岩稜を登ることにした。メンバーは60歳をすでに超えた老人であり、たそがれ3人組である。
 キャンプ用具の重い荷物を背負ってベースまで上がるのは大変であるが、夜の宴会を重点に置くとここのベースは我慢できる範囲内である。

5日
 私の家に集合してもらい、矢巾から高速道に乗る。昨日積もった雪が福島まで残っており、慎重に飛ばして走って行く。今夜の宿は、友人であり国際ガイドでもある種村洋司さんがガイドのために泊まっている原村の民宿である。
 種村さんは二戸に住んでいるが、冬の間は八ヶ岳でガイドをしている70歳の若き老人である。宿である原村の小松山荘に16時頃着き、隣にある食堂で一緒に宴会をする。コロナの影響で一緒に飲む機会も少なくなってきたが、久しぶりにたそがれた4人で枯れてはいない話をする。
 種村さんの情報によると、今年は雪が多くルンゼはラッセルだという。しかし、天気は良い予報なので氷瀑が出ていることを願う。原村は気温も低く、冬は岩手よりも気温が低いように感じる。

6日(曇り)
 近くのコンビニで買い物をし、まだ暗い中を走って行く。ペンション村では雪は少なく、美濃戸山荘への林道はしっかり踏み固まった林道でゆっくりと走って行く。
 4WD車でないとここまで入れないが、荷物が重い我々たそがれメンバーにとっては大事なアプローチ減である。ザックの重量は、アイゼンやピッケルを入れると23kgほどの重量となった。
 クリスマス登山で膝を痛めて心配していたが、ゆっくり歩く分には重い荷物でも大丈夫のようだ。雪は前来た時に比べて大して多いように感じないが、登山道も高速道路並みに歩きやすく除雪されており、木々の間から大同心が見えかくれするようになってきた。赤岳鉱泉はもうすぐだ。
 突然目の前にアイスキャンディーが現れると赤岳鉱泉だ。昨年からテント料金が一人1日2,000円に値上げされていたのにはビックリ。木陰を整地してテントを張る。アイスキャンディーでは数人がクライミングをしていた。
 登攀用具を背負って硫黄岳への登山道へ入ると、間もなく大同心ルンゼの入り口がありトレースがあった。やはりこの付近になると雪が多く、トレースを見ると30cm以上潜っているようだ。
 さらに硫黄岳方向に進むと裏同心ルンゼの入り口があり、細いトレースがあったので入って行く。トレースは沢床から尾根筋を歩くようになり、間もなくトレースが無くなった。
 沢床だと岩の隙間にはまってしまうので尾根筋を歩いたようだ。このままラッセルしても遊べる時間が少なくなるので、ラッセル跡が広い大同心沢へ転進することにした。
 登るにしたがい雪が多くなったように感じられ、しばらく進んだが氷らしきものすら出てこない。急斜面を登った所でトレースは無くなり、このまま先へ進んでも氷瀑が現れるとは思えない沢の様子なので止めることにする。仕方ないので「テントで宴会だ」と決め込む。
 テントに入り荷物を整理するがまだ15時だ。しかし夕方まで待てないので、小屋で買ってきた缶ビールで乾杯する。ルンゼは敗退であるが入山祝いだ。そして明るいうちにご就寝。


南沢分岐


大同心が見えてきた


大同心と横岳


赤岳鉱泉のアイスキャンディ


裏同心ルンゼ入口


大同心ルンゼ入口


行けどもラッセルは続いている


7日(快晴)
 4時半起床すると外は星空だ。テント内は霜がびっしりで触ると剥がれてくるので大変だ。コンロで温まると霜は自然と無くなって、テント内は急に暖かくなった。
 今日は阿弥陀北西稜であるが、小屋から聞いた情報では近日登った様子はないと言うので、今日も登攀の可能性が少ないように思える。駄目ならノーマルコースでどこかの山頂に立つしかない。
 ヘットランプを点け行者小屋へと登って行き、明るくなったころ樹の上から大同心が見えた。小屋からは阿弥陀岳の北稜と北西稜が朝日に輝いている。おいでと言っているようだが、問題は取付からのトレースである。
 美濃戸に下るように下って行くが北西稜取付きへのトレースは見つからず、ここまま行ってもラッセルだけで終わってしまうので、ノーマルコースから阿弥陀岳に登ることにする。
 小屋へ戻り文三郎尾根へ向かっていくと、阿弥陀岳への夏道にトレースがあったので向かうが、すぐにトレースは無くなったので再び戻って文三郎尾根を登って行く。樹林が切れると左右には赤岳と阿弥陀岳。背後には横岳から硫黄岳と素晴らしい景色だ。とくに中岳と阿弥陀岳は双耳峰のように素晴らしい山容を見せてくれている。
 分岐に出ると一気に風が強くなり、風速20mほどだ。足と腰の痛みで仲間からだいぶ遅れたが、風当たりが弱い鞍部で待っていてくれた。中岳に登るとまたまたトレースは無くなった。真っ青な空と白い峰のコントラストが美しく、富士山は太陽の光に霞んでいた。風が無ければ昼寝をしたいほどに天気は良い。
 ここから戻ることにするが、昨日に引き続き4回目の敗退である。「テントで宴会だー!」赤岳鉱泉で今日は日本酒を購入し、テントに入ると早くも宴会である。
 明日はジョウゴ沢の予定であるが、昨日の状態では最奥部の氷瀑しか出ていないと思うので、アイスキャンディーでアイスクライミングをすることにする。藤原君は単独で硫黄岳に登ると言っている。


赤岳鉱泉から見る 左から大同心、横岳、三叉峰、地蔵の頭、赤岳


大同心と小同心


行者小屋から見る中岳と阿弥陀岳


阿弥陀北稜と北西稜


赤岳


右から三叉峰、横岳、小同心、大同心


阿弥陀北西稜と御小屋尾根


横岳と硫黄岳


中岳と阿弥陀岳


キレットから権現岳


文三郎尾根と赤岳


キレットと富士山


文三郎分岐にて横岳と硫黄岳


中岳と阿弥陀岳


8日(快晴)
 6時半起床。朝食後、藤原君は硫黄岳に向かって行った。私と佐藤君は、時間がまだ早いので一眠りする。今日も快晴で、上がってくる登山者がいっぱいで小屋はごった返していた。
 アイスキャンディーの申し込みをし、装備チェックでザイルの太さが9.5mm以上でなければ許可にならないことが分かり、アイスキャンディまでも敗退である。ちなみに我々のザイルの径は8.9mmであり、ロープの貸し出しはしていないという。
 佐藤君は急遽硫黄岳に向かったが、私の足では今からでは無理なので、立たずみながらキャンディを眺めることにした。快晴で風が無いので立っていても寒くはなく、キャンディを半周しながら人が登るのを見ているのもまた楽しいものだ。上手と思える人は2人しかいなかった。
 昼食はビーフカレーとコーラを注文し、のんびりと味わう。13時前に2人そろって下って来ると、佐藤君は1時間で山頂に登ったという。彼は秋からランニングを始めたと言っていたが、その成果が1時間のタイムであることは間違いない。
 私も走りたいと思っているが、膝と股関節の痛みで走る気持ちになれない。朝起きてから1時間以上はストレッチや軽い筋トレはしているが、2年経っても一向に痛みが取れないのである。
 これからテントを撤収して下山である。もうそろそろ種村さんが仕事で上がってくる頃である。荷物をまとめると、来る時には収まっていた物が収まり切れない。食料は確実に無くなっているのであるが?
 重い荷物を担いで下り始めると、次から次と登山者が登って来る。今日は連休の初日である。来るたびに除けるので、かえって休めて疲れないで歩けた。
 今夜は清水ちゃんの家に泊めてもらうことになっている。もみの湯で入浴し清里に向かう。清水薫さんは、岩手の盛岡山想会に今でも入会しており、若い頃にはザイルを組んだ後輩である。転勤で東京に移り雲表倶楽部に入会したが、現在は私も倶楽部に入っているのである。
 昨年は一緒に小川山でクライミングしているが、佐藤君と藤原君は会うのは何十年ぶりである。奥様は料理が上手でたくさんのおかずを用意してくれた。楽しい語らいとともに酒量も進み、佐藤君は居眠りを始めた。


アイスキャンディと大同心、横岳


赤岩の頭からの硫黄岳


硫黄岳


硫黄岳から見る大だるみ、三叉峰、赤岳


9日
 しっかり朝食もご馳走になり、岩手に向かって走って行く。間もなく電話があり、昨夜飲み残した酒を届けてくれた。来る時には山への思いで運転にも力が入っていたが、全てのルートで敗退したことが影響してか、飲みすぎのせいか運転に力が入らない。
 仙台を過ぎると天気が悪くなり、矢巾ではブリザードが吹いていた。家に着いたのは17時前であるが、藤原君はこれから二戸まで帰らなければならないのである。
 今回は不発に終わってしまったので、また行かなけばならない山になってしまった。はたして、今回目的にしたルートにこれから行けるだろうか?
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