白神岳 世界遺産に登録された白神岳、頂上小屋から日本海に沈む夕日は美しい!
 


3月16日(金)〜17日(土) 天候:16日/晴れ、17日/風雪のち小雨 メンバー:単独
  コース:林道〜登山口〜蟶山〜大峰岳分岐〜避難小屋〜白神岳 往復


 世界遺産に登録されている白神岳へは、未だに訪れたことがなかった。山を調べていると、稜線沿いに白神岳よりも標高が高い向白神岳があった。
 そこには登山道は無く、藪が深いため雪がある時期しか登れない困難な頂きだった。しかも、白神岳から往復で7時間程もかかりため2泊を用し、限られた登山者しか登ることが出来ないみたいだった。
 それを知って、今回の目標は向白神岳に決まった。白神岳の頂上避難小屋に1泊し、翌日に向白神岳に往復して下山することにして、2日間の天気の良い日を狙った。
 15日から行く予定であったが、早朝に雪が積もったため1日ずらして16日から17日とし、18日を予備日にあてた。

 朝5時前に家を出て高速道に乗る。最近では、朝5時を過ぎるとだいぶ明るくなってきていた。
 十和田I.Cで高速道を降り、国道108号から7号を経て梅ちゃんが住んでいる北秋田市に入る。天気は快晴で、北西の方向に白い三角錐の山が見えてきた。白神岳なのだろうか?
 ニッ井のトンネルの手前に、白神岳はこちらからという案内板があったので、近道かと思い曲がった。ナビでも弱いながら誘導ラインが出ていた。
 道は山へと向かい藤里町を過ぎたので道路地図で確認すると、釣瓶峠に行く道だったので7号に戻る。往復で40分も時間をロスしてしまった。
 能代市に向かっていると梅ちゃんから電話が入っており、かけ直すと「まだそんな所にいるの、昼になってしまうよ」と言われた。もう8時は過ぎているのに、まだ海辺に着いていないのである。
 9時を過ぎてやっと白神岳登山口の入口に着いた。林道は除雪されていたが、途中の工事用事務所がある所で行き止りとなっていた。工事の方に断って車を置かせていただく。 車の中で身支度をして、いよいよ歩き出す。トレースは無かったが、3月始めに入ったという弘前大学の足跡がうっすらと残っていた。
 昨日はこちらも雪が降ったみたいで、20cm程の新雪が積もっていた。スノーシューを付けると10cm位しか潜らないので歩きやすい。

林道の歩き出し
林道の歩き出し

 駐車場から登山口に行くと、新しいトレースがあった。どこから登って来たのだろうか?先行者はワカンを履いており、今朝の足跡だった。

駐車場
駐車場

登山口
登山口

 ありがたくトレースを使わせてもらい、トレースをたどって行く。広い杉林の登山道から323mピークを巻くように斜面をしばらくトラバースすると尾根筋に出た。
 天気は良く、ミズナラ林の隙間から差し込む日の光は気持ちが良い。今回ザックの重量は17kg程だったが、普段は日帰り登山ばかりだったので荷物が肩にくい込んでくる。大粒の汗を流し、トレースに感謝しながら登って行く。

尾根筋
尾根筋

 急な登りではロープが見えたので、どうやら夏道沿いに歩いているらしい。二股分岐は確認できなかった。急な登りから尾根筋の緩やかな登りになり、しばらくすると841mの蟶山に着いた。

蟶山
蟶山

  先行者が近くにいてこちらに戻って来た。能代の方で、2人で来たが調子が悪いので自分は残り、連れが先へと登っているという。今日は帰ると言う。今夜の白神ホテルは貸し切りみたいだ。
  トレースのお礼を言い尾根を進んで行くと、上から女性の方が降りてきた。見晴らしの良い所まで行って来たと言い、トレースのお礼を言って分かれる。

ブナ林の尾根
ブナ林の尾根

大峰岳の稜線
大峰岳の稜線

 小さいアップダウンの繰り返しの尾根で、ブナ林が美しい。まだ上部の山は見えてこず、ようやく左に大峰岳の稜線が見えてきた。977mのピークは見晴らしが良く、トレースはここで終わっていた。

大峰岳の稜線
大峰岳の稜線

主稜線
主稜線

 いよいよここからラッセル交代となる。急な登りでは、下の層の雪が硬くスノーシューでは滑って登れないので、スノーシューをデポしてツボ足で小ピークに立つとそこからは又ラッセルとなったので、戻ってスノーシューを回収する。

大峰岳への登り
大峰岳への登り

白神岳と便所
白神岳と便所

霧氷
霧氷

蟶山への尾根と日本海
蟶山への尾根と日本海

 ここで森林限界となり、ようやく待ちに待った白神岳の稜線に、小屋が見えた。ここからは急な登りから主稜線に出るみたいだ。登りは雪がクラスとしてラッセルは無くなったが、ハイ松の空間に腰まで潜ると這い上がるのに一苦労した。
 風と共に青空はなくなってきたが、視界は良いので日本海の海岸線から水平線までハッキリ見えた。黒々とした海は肌寒くなる程の冷たさを感じ、この海に夕日が沈んだら少しは暖かく感じるのだろうか。
 稜線に出ると前方に真っ白い向白神岳の稜線が飛び込んできた。稜線は、大峰岳に通じる分岐点で、白神岳へは90度方角が変わる場所で、吹雪かれたら目標物がないのでルートを見失いそうだ。小さく赤いマーキングはあったが、帰りのために2ヵ所に目印の長いテープをマーキングする。

向白神岳の稜線
向白神岳の稜線

大峰岳への稜線
大峰岳への稜線

 向白神岳は思っていたより遠く、白神岳からグルッと回り込むようにアップダウンの稜線が向白神岳へと続いている。ピークの奥には先端が尖った岩木山がそびえていた。なんとも美しい光景に、明日もこんな天気が続くことを祈る。

白神岳
白神岳

向白神岳までの稜線
向白神岳までの稜線

向白神岳(左)、岩木山(右)
向白神岳(左)、岩木山(右)

便所と避難小屋
便所と避難小屋

大峰岳分岐へのピーク
大峰岳分岐へのピーク

 稜線の緩やかな登りで手前のピークに立つと小屋が見えた。資料では手前に便所があるとあったので、今見えているのが便所で避難小屋はまだ見えなかった。便所まで行くと奥に、雪に埋もれて屋根だけを出した避難小屋があった。
 小屋の入口はビッシリ雪で埋まっているので掘り起こさなければならないが、スコップは無いのでピッケルで削ってみる。表面を削ると中はサクサクだったので手で雪をかき出す。戸から25cm位の巾で掘って行き、30分程で半分まで掘ったが戸はビクリともしない。時間はすでに5時半である。
 小屋に入れない場合を考えて、便所に様子を見に行って見る。匂いはあるが何とか泊まれそうなので、暗くなるまで小屋掘りを頑張ることにする。
 大分掘ったが戸は開かず、力いっぱい戸を押すと戸が外れて小屋の中に入れた。引き戸の反対側には雪が詰まっており、これでは戸が開くはずもなかった。
 小屋の入口は吹きだまりの壁で覆われているため、外の様子は見えないので回り込んでみると、夕日が日本海に沈もうとしているところだった。とても美しい光景にビックリしながらシャッターを切る。

避難小屋から見た日本海に沈む夕日
避難小屋から見た日本海に沈む夕日

避難小屋から見た白神岳
避難小屋から見た白神岳

 せっかくの光景なので、200m程離れた頂上に行く。夕暮れで暗くなりかけた空に、真っ白く光る向白神岳の稜線の奥に誇らしげに鋭くとがった岩木山がひときわ美しい。
 あー、なんと美しい光景なんだろうか。一人で眺めるにはもったいない景色に感動しながら、こんな美しい姿で迎えてくれた白神連峰に感謝する。もっともっと眺めていたかったが、寒さと空腹のため小屋に戻る。

避難小屋から見た白神岳
避難小屋から見た白神岳

頂上から見た避難小屋と岩木山
頂上から見た避難小屋と岩木山

 小屋はこじんまりとした3階建てになっていた。大きな銀マットが沢山あったのでありがたく使わせていただく。2階の隅に陣取り、銀マットで仕切りをすると個室が出来上がった。
 まずはコンロで暖をとる。ガスコンロに、卓上用カセットコンロのガスボンベを接続するアダプターを購入したので使ってみると、快適に燃えてくれた。ガスは3本あるので景気良く燃やしたかったが、寒さでガスの勢いは最高火力まではいかなかった。

家庭用カセットボンベが使えるアダプター
家庭用カセットボンベが使えるアダプター

 今夜の献立は、前菜のサラダにメインのモツ鍋だ。アルコールは、ビールと焼酎。家での食事よりも豪勢だ。サラダは、レタス、トマト、ゆで玉子、生ハム。モツ鍋は、こんにゃく、豆腐、ニラ、キャベツ、長ネギ、モツ、特性スープという豪華版である。
 まずは前菜をつまみにビールで乾杯する。冷たいビールは空腹な五臓六腑に沁みわたった。ビールで体は寒くなったので、モツ鍋の暖かいスープとホット焼酎で体を温める。久しぶりに高い所まで荷物を担いだので、けっこう疲れており腰も痛い。
 ホット焼酎を飲みながら、明日行く向白神岳のコースを地図を見ながら確認する。この雪の状態では、かなりの厳しさが予想さる。状況によっては明日も泊まことを想定して来てはいるが、午後早目には家に戻らないといけない。
 明日の好天を祈りつつ、9時頃シュラフに潜る。夜中、トイレと暑さで目が覚め、外に出ると風はあるが星空だった。ダウンジャケットを脱いで再びシュラフに潜る。
タイム:林道終点(9:45)→登山口(10:30〜40)→蟶山(13:15〜25)→稜線分岐(16:30)→避難小屋(16:50)
    白神岳(18:00)

16日(吹雪のち小雨)
 時々目を覚ますと外は風が強いらしく、屋根に雪が吹き付ける音が聞こえた。
 5時過ぎには出発するつもりであったが、目が覚めたのは5時半頃だった。外に出てみると、風が強く視界も悪い。この状態では、初めての向白神岳は諦めることにして下山することにする。
 朝食のメニューは、インスタントラーメンとフリーズドライの炒飯である。炒飯は、もしここに閉じ込められた場合の保存用としてラーメンだけの朝食とする。早々にパッキングをして出発の準備をする。
 さっき閉めた戸の隙間から雪が入り込み、すでに雪で埋もれている。雪をかき出し、入口の雪もかき出して戸を閉めれるようにする。入口にはだいぶ雪が入ってしまったが、雪を外に出すことは困難なので、きれいに出来なくて申し訳ないがこのままとさせていただく。
 風の当らない便所に行って、アイゼンを付ける。入口が開いているので雪が入り込んでおり、昨夜宿泊しなかったことに感謝する。完全武装でいよいよ出発する。

朝の避難小屋
朝の避難小屋

大峰岳分岐への下り
大峰岳分岐への下り

 風は強いが視界は100〜150m程あるので、昨日のトレース跡を確認しながら下って行く。分岐点で昨日付けた目印や赤テープを確認する。
 ここからコースは90度西へと方角が変わるので、視界の悪い時は要注意だ。尾根に下るまでのこの部分は、左には雪庇があり、右に行くと沢に入ってしまうので気をつけなければならない。

分岐から尾根に向かって
分岐から尾根に向かって

分岐から尾根に向かって
分岐から尾根に向かって

分岐からの下り
分岐からの下り

 昨日のトレースに導かれて下って行くと蟶山へ続く尾根となり、ここからはもう迷う所はなくなり、緊張感から解放される。複数のパーティであればいろんな面でお互いに助け合うことができるが、単独行の場合は全て一人で判断し、神経を集中して悪場を切り抜けなければならない。そんな緊張感が楽しいのでもある。
 昔、壁を登っている時は、高度感と落ちる恐怖感と闘いながらの緊張感が魅力だったが、今は単独行での緊張感がたまらない。
 尾根になった所で、アイゼンからスノーシューに履き替える。ゆっくりと休み空腹を満たす。蟶山からの急な下りは、スノーシューは滑って歩きにくいためツボ足となるが、潜ってしまうので再びスノーシューに履き替える。

蟶山
蟶山

 12月から2月までの山は雪が柔らかいのでスノーシューが威力を発揮するが、3月からは雪が硬くなってくるためあまり潜らないので、下りのことを考えるとワカンの方が使いやすいと思う。そういえば、昨日の2人もワカンだった。
 下って行くと小雨が降ってきた。山での嫌な時期は、11月のミゾレと3月の雨である。やっと車に着き、初めての白神岳山行が終わった。
タイム:避難小屋(6:20)→蟶山(7:40)→登山口(10:40)→車(11:05)

 国道101号を南下し、あきた白神駅の手前から海岸側に下ると八森湯っこランドがある。天然温泉かけ流しの共同浴場で、入浴料300円と安い。2日間の汗を流しサッパリとする。
 そこから更に奥へ入って行くと、こじんまりとした「いしづか食堂」がある。地元漁師から仕入れた食材を使い、新鮮な刺身の丼ぶりがおすすめメニューだ。1,000円のてきとう丼は、沢山の種類の刺身が入っており、魚仕立ての味噌汁と小鉢が付いていてとても美味しい。
 店主から白神山地の話を聞く。この近辺に一泊して、この店で酒を飲みたくなるような、新鮮で美味しい食堂だった。
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