洞ヶ沢登攀〜屏風尾根 ガイド登山
 

岩手山洞ヶ沢

2015年4月18日(土)〜19日(日)

 メンバー:嶋脇さん、下野さん、佐藤 博、小田中 智  
 コース:洞ヶ沢堰堤〜洞ヶ沢〜平笠不動避難小屋〜岩手山〜小屋〜屏風尾根三峰〜屏風尾根〜七滝〜七滝登山口


 洞ヶ沢は、岩手山屏風尾根の北面に位置する沢で、夏には水流があり、大小の滝がたくさん続き、登攀を対象とした困難度の高い沢である。
 洞ヶ沢は、昭和33年頃盛岡山岳会により初そ行されたが、昭和39年に盛岡山想会が全ての滝を登る完全そ行がなされた。
 大きい滝は20数mあり、オーバーバーハングやシャワークライム、急傾斜のツルツルの滝などがあり、人工でなければ登れない滝が5ヵ所ある。滝はF16まで数えられているが、小さい滝も合わせると30を数え、登りがいのある登攀そ行が楽しめる沢だ。
 冬は、廊下の側壁や滝には氷が張り、アイスクライミングができるが、アプローチが遠くラッセルも強いられるので、アイスクライミングを楽しむためだけの登山には向かない。
 残雪の時期は、雪が滝を埋め尽くしているので歩きやすく、急な斜面を登る登高を楽しめる。雪の状態により滝の下や出口はシュルンドが開いているので、部分的には緊張感も味わえる。
 屏風尾根は焼切沢の七滝から平笠不動避難小屋まで続く尾根で、赤倉岳付近から岩稜が点在し、赤倉岳、三峰、二峰、一峰と岩場があり、人が入らないため魅力ある尾根である。
 屏風尾根の登山道は一峰から三峰までしかないため、屏風尾根の通過は雪のある時期に限られる。
 今回は、洞ヶ沢を荷物を背負って登攀し、平笠不動小屋に泊まり、翌日山頂に登って屏風尾根を末端まで下る計画をした。この時期は沢も尾根も雪で詰まっているので歩きやすく、簡単な登攀と急斜面の登り下りが楽しめる。
 車は2台で行き、1台は七滝登山口にデポすることにした。

18日(晴れのち曇り時々小雨)

 4時半に下野さんを迎え、焼走り駐車場で嶋脇さんと佐藤君に合流する。佐藤君の車を七滝登山口に置くため向かうと、手前にはミズバショウが咲いていた。例年より早いようだ。
 私の車で洞ヶ沢の入口に向かうと、林道をいくらも入らないうちに雪のため入れなかった。一昨年前は砂防堰堤まで入れたものであるが。
 堰堤上の土石流をくい止める鉄パイプには、流された木屑がいっぱい溜まっていた。前は何もなくくぐったものであるが、昨年の大雨の影響だと思われる。
 天気は良いが上空では風が強く、木々がうなっている。雪の詰まった沢を歩いて行くと最初の滝が現れた。ここは滝上に這えている灌木を利用して登っていたが今はなく、しっかりと登攀になった。
 小田中リードで右上し、2人目・3人目はアッセンダーを使いながら登り、最後の佐藤君を確保する。岩がぼろぼろなので、しっかりとフットホールドを作り、空身になって乗り越した。
 ここを過ぎると雪が少なくなり沢底が見えたりしている。歩きやすい所を見つけて、右に行ったり左に行ったりとしながら登って行く。
 やがて両脇が狭まってくると滝があり、右側は滝が出ているが左側は雪壁になっており、途中に切れ目がある。佐藤君リードで途中にスノーバーで支点を確保して登って行った。
 次の滝は途中が切れてシュルンドになり、その上は垂直に雪が落ちている。登れそうな所は右の岩とのみぞ状であるが、途中にツララがある。シュルンドは底が深いため落ちたら出てこれないかもしれないので、気休めにスノーバーで支点をとる。
 溝状の雪はグサグサのためピッケルをしっかり差し込んで岩から雪へ移り、邪魔なツララをザイルを切らないように落とし、ピッケルとバイルで左の雪壁に入り抜ける。
 ビレイをとれる木がないので雪の斜面を登り、ピッケルとバイルを差し込んでザイルを固定した。2人はアッセンダーを使いながら登り、佐藤君は確保して越えた。
 次に現れた滝はオーバーハングしており、水しぶきが落ちていたので、滝手前の側壁を回り込むような雪壁を佐藤君リードで登る。雪壁を左上し急なブッシュを乗り越えて滝上の左に出た。
 急な雪の斜面をしばらく登ると沢から離れてしまったので、このまま尾根上を登って行く。やがて左に三峰の大きな岩峰が見えたので、我々は一峰に向かう尾根上を登っていることになる。
 4ヵ所ザイルを使用したので大分時間が押している。しかし、ルートは洞ヶ沢本流の左の尾根に入ったので、このまま登って行くと平笠不動の小屋に着く。時間的に暗くなってから着くものと思われる。
 間もなく前方に一峰の岩峰が見えてきたが、もう18時を過ぎていた。傾斜の緩い斜面を登って行くと暗くなり、間もなく避難小屋に着いた。2階の冬期入口から入り、1階に降りると小ぎれいな小屋だった。
 熱いお茶を飲み、雪を溶かして水を作ると水は赤っぽかった。今夜のメニューは、ホルモン炒め、パスタである。ビールとコーラで乾杯する。


焼走りから見る岩手山


屏風尾根の全容


県民の森のミズバショウ


洞ヶ沢


最初の滝


アッセンダーで登る下野さん


右から登る


2回目のザイルを使用した滝


佐藤君リード


3回目のザイルを使用した滝


小田中リード


沢の上部


屏風尾根三峰


屏風尾根一峰

タイム:洞ヶ沢林道(6:40)→平笠不動避難小屋(18:45)


19日(晴れ)
 朝寝坊してしまい、6時半の起床となってしまった。日は昇り窓からは山頂の山容が、黒い姿で見えている。今年は雪が少ないので斜面には雪が付かず地肌が見えている。馬返し側の八合目小屋から上も今年は雪が無かった。
 炒飯そばの朝食をすませ、小屋を掃除して外に出る。すでに日は高く、よい天気である。ザックを小屋の脇に置き、ショルダーバックに水を入れて、空身で頂上に向かう。
 登るにしたがい、裏岩手連峰の峰々や八幡平の峰々が一望でき、鬼ヶ城の奥にそびえる秋田駒ヶ岳の山容がとても美しい。
 お鉢に出ると山頂から単独行者が下ってきて、まだ9時過ぎにもかかわらず、朝馬返しから登ってきたという。ずいぶん早いペースだ。若さとスピードが羨ましい。
 山頂から望む山は、雲に覆われ近場の山々しか見えないが、これから向かう屏風尾根の後ろに見える裏岩手と八幡平の峰々は真っ白で素晴らしい。
 小屋に戻り一休みし、屏風尾根を下り始める。三峰付近は雪が切れており、三峰を過ぎると夏道がないのでうっすらと残る踏み跡をたどる。
 尾根の上はハイマツに覆われているので、雪の付いている所をトラバースするようにアップダウンしながら下って行く。三峰手前から見た三峰は岩場であったが、過ぎてから振り向いて見る姿は、山頂を背景にして迫力がある岩峰だ。
 赤倉岳に近づくと稜線には雪が無いので、右のイタザ沢側の斜面をトラバースする。斜面は部分的に急で、スリップするとしばらく滑っていく。雪はくされて柔らかい部分もあるが、私も佐藤君もザックにくくりつけたピッケルを出そうとはしなかった。
 しばらく下りながら稜線に戻ると1,543mピークで、赤倉岳を過ぎてしまっていた。ここから見る赤倉岳の岩壁と、後ろの岩手山の姿が素晴らしく美しい。これが岩手山を望む最後の場所である。
 少し下るとオオシラビソの木となり適度な傾斜で、尻滑りには最適な斜面だ。向かう先は七滝で、地図を見ながら尻滑りで滑って行く。人の滑り方を見ては笑いながら、楽しい尻滑りは続いた。
 だいぶ下ると斜面が緩くなったので、左の沢状に入る。これを下ると七滝に出るはずである。沢の音がして、間もなく前方に七滝が見えた。昔に七滝コースを登ったり下ったりしていたが、豪快に落ちる七滝を見た記憶はなかった。
 ここまでは滝を見に来ているとみえ、多くの足跡があった。登山道から林道となり、しばらくして車を置いた登山口に着いた。
 洞ヶ沢入口で佐藤君と別れ、残りの者は焼走りの湯へ行き汗を流す。


小屋から見る山頂


小屋前にて


屏風尾根と裏岩手縦走路


鬼ヶ城と秋田駒ヶ岳


お鉢


山頂にて


三峰


三峰と岩手山


赤倉岳と大深岳


三峰と岩手山


三峰と岩手山をバックに


黒倉岳東壁


シリセード


屏風尾根の末端


七滝

タイム:小屋(8:30)→岩手山山頂(9:30〜40)→小屋(10:00〜20)→1,543mピーク(13:05〜20)→七滝(15:001〜10)→
    七滝登山口(15:50)

 今回の洞ヶ沢は例年に比べると雪が少ないため滝が出ており、ザイルを使う個所が多くなり、また登れない所は高巻くことになった。それはそれで面白いのであるが、人数が多いとその分時間がかかってしまう。
 今回は荷物を背負って登っていることと、ザイルを4ヵ所使ったので時間はかかったが、そのぶん登攀する緊張感が楽しめたと思う。
 1泊して屏風尾根の下降は、ごく限られた人しかできないので、総体的には今回のルートを登って下る登山者はほとんどいない。それだけに意義あるルートであり、緊張感を楽しめる山行であったと思う。

 来年このコースを登りたい方は、時期が限られますので年内早目にご予約ください。
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