穂高 北穂・前穂北尾根・奥穂
 


2019年4月30日(火)〜5月6日(月)
 メンバー:下野さん、佐藤 博さん、小田中 智
 コース:上高地〜涸沢〜北穂〜涸沢〜前穂北尾根〜奥穂〜涸沢〜上高地


 果たして意味があったのかの10連休を利用して、北穂東稜、前穂北尾根〜岳沢、岳沢〜ジャンダルム〜奥穂の計画を立て、友人とお客様の3人で行くことになった。
 北穂東稜はバリエーション入門ルートで、雪稜からゴジラの背を通過する爽快なコースだ。北尾根は穂高連峰を代表するバリエーションルートで、3峰は3ピッチのクライミングがあり、岩稜登攀が味わえる中級のコースだ。天狗のコルから奥穂は西穂から奥穂への一般ルートではあるが、ピークへの急な登下降と岩稜と雪稜のミックスで、ジャンダルムの通過が壮大だ。
 天候と体調により3本登れるとは限らないが、2本登れればラッキーという気持ちで望む。各ルートは雪稜と岩稜の登下降がありザイルを使用するため、歩き方やザイルワークによっては行動時間が大幅に変わる。

30日(曇り)
 今回は下野さんの新車で行くことになり、日産トレイルの運転が楽しみだった。連休も中盤にさしかかっての移動のため交通沈滞はなかったが、2ヵ所の事故のため1時間ほどの待ちがあった。
 穂高に来た時にはいつもお世話になる「沢渡温泉 湯の花荘」に宿泊する。帰る時まで無料で車を止めていただけるのでありがたい。
 明日は天気が悪い予報なので天気祭りをして休む。今日は3人で交代の運転で疲れてはいなかったが、誰かのいびきの音を聞く前に眠ろうとしたが中々寝つけなかった。

1日(曇りのち小雨)

 今日から新しい年号が変わり令和元年だ。天気予報では夕方まで雨であったが、まだ降り始めてはいない。タクシーで上高地に入ると小雨が降って来たので、傘を購入して歩き始める。しかし、間もなく雨は止み、このまま涸沢に着けることを願う。
 横尾の食堂で昼飯を食べ、橋を渡ると雨が降り出し傘をさす。本谷橋は雪に埋まっており、沢を登って行くので夏に比べるとだいぶ歩きやすい。
 今回は個人装備の軽量化をしたのでザックの重量は17kgのはずだったが、佐藤君がショートスキーを持ってきたので、結局ザックの重さは19kgとなり、時間が経つごとに疲れが出てきた。
 最近特に荷物が重くなると、疲れが早く出るようになってきた。全て小屋泊にすると楽なのであるが、まだ背負えるうちはテント泊をしたいと今回は頑張った。
 傘のおかげで濡れは防げ、涸沢に着くころには雨は上がった。思ったよりテントの数は少なく、空き地を見つけて整地する。
 テン場代は1人1泊1,000円と高いが、水とトイレが使えることを考えると安いのかもしれない。夕食はジンギスカンで乾杯し、まだ明るいうちにシュラフに潜る。


奥穂の稜線は雲の中


涸沢テント場からの涸沢岳と奥穂高

タイム:上高地(7:40)→横尾(10:45〜11:30)→涸沢(15:40)


2日(曇りのち晴れ)
 4時に起床し、ハーネスをつけて出発する。今の時期になると4時を過ぎると明るくなり始め、最近早起きしていないので夜明けの時間がわからなかった。
 天気は曇りで北穂沢の中間部からは雲におおわれていた。登るにしたがいガスってきたので東稜は止めにして、そのまま沢を詰めて行く。東稜には2パーティ入っており、後続の1パーティも入って行った。
 急な登りにさしかかる頃には、すでに下山組が下ってきた。やがて小雪になりサラッと新雪が積もったので、帰りはイヤらしい下りになりそうだ。
 北穂山頂はガスで何も見えないが、午後は晴れるはずなので小屋でコーヒータイムにする。少し下った小屋は雪を掘り起こしたようで、雪の回廊の階段が入口へと続いていた。たぶん5mは雪を掘り起こしたようだ。
 小屋で休んで外に出ると晴れ間が現れ、雲の流れの隙間から奥穂や槍の姿が現れた。幻想的な瞬間だった。これからは晴れそうな気配だ。
 ふたたび山頂に立つと槍ヶ岳がはっきり見えた。小屋で待ったかいがあり、目の前には滝谷の一尾根と二尾根がそそり立っていた。ここを登ったのはもう40年近い年月が経っているのであるが、昔と変わってはいないように思う。
 下りはザイルを結び、コンテニュアスで慎重に下って行く。急な斜面が終わると、いよいよ佐藤君のスキー滑降である。まだ斜面は硬いのでガリガリ音を立てながら滑ったが、ショートスキーで登山靴でもあり間もなく脱いで下り、下部からスキーをつけ気持ちよさそうにシュプールを描きながら見えなくなった。
 涸沢に着くと真っ先に食堂に行きビールを飲む。これだから春山は楽しいのである。もう一つの楽しみは尻滑りであるが、北穂沢の上部は硬かったので尻滑りはかなわず、滑りは佐藤君に独り占めされてしまった。
 夕食はビーフシチューをつまみに、明日の北尾根の天気を祈念して乾杯する。


北穂東稜 東稜コルからゴジラの背


ガスの北穂山頂


北穂高小屋は5m以上も雪を掘り起こしていた


南岳と槍ヶ岳 右奥が白馬岳、左奥が薬師岳


前穂北尾根


滝谷 一尾根、二尾根


帰りの北穂山頂は晴れた


涸沢テント、涸沢小屋、北穂の稜線 下野氏撮影


涸沢岳稜線の星空 下野氏撮影

タイム:涸沢(5:40)→北穂高岳(9:25〜10:30)→涸沢(13:15)


3日(晴れ)
 今日は朝から良い天気で、早くから白出のコルへ登る姿が見えている。5・6のコルへ向かう姿は見えないが、アイゼンの跡が残っていた。半分も登るとデブリがあり、新しいデブリなので連休最初のみたいだ。
 稜線には先行パーティの人影が見えた。青空は濃く、奥穂から北穂へ続くギザギザの稜線が美しい。ザイルを結び岩稜をコンテで登りだす。
 ここに来るのは何年ぶりになるだろうか?春合宿・夏合宿・冬合宿と訪れ、それぞれに目的に応じて通ったのは20代の頃だったが、仕事で来るのは初めてである。
 岩場や急傾斜の雪の斜面ではスタカットにするため、時間はドンドン進むが3・4のコルは遠い。写真を撮る余裕もなく、北尾根ではほとんど撮影しなかった。
 3峰の取り付きに着いたのは12時を過ぎており、先行パーティの声だけが聞こえた。天気が良く風は爽やかで、ヤッケの代わりにカッパ姿であるが、長いジッヘル時間も寒くはない。
 急な壁になると岩は硬く、適度にホールドがあるため登るのも楽しい。3ピッチ目になると上で声がして、ザイルが降りてききて、先行パーティが懸垂下降してきた。時間を食ったので3・4のコルから涸沢に下降すると言う。
 我々は奥明神沢を岳沢へ下る予定であるが、時間はかなり押しているのでどうなることだろう?いずれにしても登るしかない。山頂までスタカットで登ったため前穂に着いたのは夕暮れ時だった。
 すでに暗くなり始めていたが、天気は良く風もほとんどない。どこかでビバークするしかないので明神岳側に少し下り、雪の斜面をスコップで掘り出す。
 掘りおこしたブロックを脇に積み重ね、3人が座れるスペースに掘っていく。もう真っ暗で上高地方面の灯火が輝いていた。ザックを敷き3人並んでくっつき合いツエルトを被る。ゆっくりとした時間が流れ、時計を見るたびに過ゆく時間は遅かった。
 私は今回ダウンジャケットもヤッケも持ってこなかった割には、それほどの寒さは感じないが足首と膝が寒かった。いつになっても風はないので、星空を眺めれる快適なビバークであった。


朝の涸沢岳から奥穂


北尾根の稜線 真ん中が前穂、左が6峰


5・6のコルから5峰への登り


槍ヶ岳、中央奥が鹿島槍ヶ岳、その右が大天井岳 下野氏撮影


奥穂、涸沢岳、北穂


3峰


吊尾根から奥穂とジャンダルム


3峰3ピッチ目の核心部

タイム:涸沢(5:10)→5・6のコル(6:00)→3・4のコル(15:00)→前穂高岳(18:10)→ビバーク地(18:20)


4日(晴れ)
 やっとやっと明るくなってきた。立ち上がると体はカチカチに硬くなっており、軽く柔軟をする。空には雲もなく眩いばかりのご来光だ。太陽の暖かさを感じた。
 前穂からの奥穂はことのほか美しい。昨夜は上に泊まったので今日の行動は岳沢はありえなく、吊尾根を通って奥穂高山荘から涸沢だ。最悪に時間がかかったとして奥穂高山荘泊まりなので気持ち的には楽だ。とにかく安全に進もう。
 前穂からは冬道である吊尾根のコルへ向かう。雪は締まっているのでスタカットでコルまで下る。時間はたっぷりあるし、天気も良いので写真を撮りながら下る。
 早くも奥穂からの若者がやってきた。日が照り始めるとザクザクの雪になり、下りはかえって滑りやすくなった。とにかく安全を第一に傾斜がある個所はスタカットで歩く。
 奥穂は遠く一睡もしていない体には、雪の登り斜面はきつくなってきた。時間はあっという間に過ぎていくが、いつになっても今日も風はない。前半の連休は天気が悪かったみたいだが、後半の今は最高の天気で眺める景色は素晴らしい。
 やっと奥穂山頂に着いたのは15時だった。水もなくなり雪ばかりをかじり、行動食もなくなってきたが、この素晴らしい山頂は何にも勝る景色だ。
 山荘への下りは、一番の神経を集中する下りだ。とにかく皆が疲れているのだ。コルに着いて、迷いもなくアイゼンを脱いで小屋に入った。今日は山荘泊まりだ。昨夜は岳沢小屋に泊まる予定だったのでその分の費用もある。
 夕食時の缶ビール、これほどビールが美味いと思ったことはない。昨夜は少しの行動食しか食べていないせいもあるが、豪華な夕食に思えた。最近の北アルプスの山小屋は食事が豪華であるように思う。
 500mlのビールを飲み干すと、もうアルコールは必要なかった。体が熱くなり早く眠りたいだけだ。


前穂にて


奥穂とジャンダルム、左が涸沢岳


前穂と3峰4峰


中央の奥が乗鞍岳、その左が御嶽山、右が焼岳、左が霞沢岳


中央から天狗の頭、左に間ノ岳、左に西穂、左に独標、奥に白山


奥穂はまじかい


奥穂山頂


中央に槍ヶ岳、右奥に鹿島槍ヶ岳、槍の右に剱岳、左に水晶岳、左に薬師岳


ジャンダルム、左に西穂


涸沢岳、槍ヶ岳、左に薬師岳、右に北穂

タイム:ビバーク地(5:50)→前穂高岳(6:00)→奥穂高岳(15:00)→奥穂高山荘(16:45)


5日(快晴)
 ご来光を見るつもりもなく、朝食間際まで眠っていた。今日も天気がいい、悪かったのは入山日だけだ。こんなに毎日天気が良い春の連休は初めてである。
 今日の宿泊先は上田市なので、沢渡から頑張って走らなければならない。日が当たり始めた下りの斜面は柔らかくなるのも早く、そろそろ尻滑りができそうだ。各自が考案した尻滑り装具を着けて、尻滑りのスタートだ。
 私は厚いビニールのカッパを半ズボンにし、尻には銀マットを入れた。最高の装具である。佐藤君は100円のカッパであるが、やはりすぐに破けてしまった。
 テントを撤収して横尾へと下りだす。佐藤君はスキーなので、すぐに見えなくなってしまった。快適に滑っていることだろう。これから登ってくる人たちも結構いて、混雑する連休を外したようだ。
 横尾の食堂で昼食を食べ、上高地に向かう。来る時には雲に隠れていた前穂と明神岳が見送ってくれた。今度はいつ来れるだろうか?やはり私にとって穂高連峰は憧れの山域だ。
 徳沢を過ぎるとサルの群れが現れたが、ポーズをとって写真を撮らせてくれなかった。河童橋でいよいよ穂高ともお別れだ。こんなに天気が良くて本当にありがとう!
 宿は上田市にある秋和鉱泉旅館である。高速をぶっ飛ばし、予定の20時前に着いた。5日ぶりの風呂は気持ちが良いのだが、日に焼けてただれた唇が湯に染みた。
 ここの旅館は鯉料理がおすすめ料理らしく、特別料金で予約していた。出てきた料理は沢山の品数で、鯉の刺身と鯉こくが出てきて、初めて食べる鯉の料理は泥臭さが無くとても美味しかった。宿泊料金は1泊2食で8,000円とこれまたお安い料金である。
 私はご飯は全然食べなかったが、それでも料理自体も全部は食べれなかった。別に減量を目指しているわけでもないが、60歳を過ぎたら量を食べれなくなっていた。


前穂北尾根、左が6峰


快適に滑る尻滑り、右が涸沢槍


白出のコルと奥穂


涸沢から滑る佐藤君


屏風岩東壁


左が前穂、中央が明神岳


河童橋付近から 中央が奥穂で右が吊尾根、左へ西穂の稜線

タイム:穂高岳山荘(7:10)→涸沢(8:40〜9:55)→横尾(12:40)→上高地(16:30)


6日(晴れ)
 朝食をゆっくりいただき、盛岡へと車を飛ばす。前半は後部座席で寝て過ごし、最後に運転して夕方には自宅に着いた。

 天候に恵まれた穂高の春山は最高で、こんな山登りをいつまで続けれるか分からないが、体が動くまで楽しめたら幸せである。
 今回はビバークをしてしまったが、コースを間違ったためでもないので、時間がかかってしまったのはいたし方がない。
 来年は、西穂から奥穂へ登りたいと思う。これからは、むかし通ったコースをまた登り直したい。
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