冬の焼石岳 中沼コース 冬が初めての焼石岳は沢山の教訓を教えてくれた!
 
吹雪 風速15m、視界8mの焼石岳山頂
吹雪 風速15m、視界8mの焼石岳山頂

2014年1月18日(土)〜20日(月) メンバー:佐藤 博、小田中 智

 コース:尿前渓谷橋〜尿前林道〜中沼〜銀明水避難小屋〜泉水沼〜焼石岳〜東成瀬村コース1,200m付近〜焼石岳
     〜姥石平〜銀明水避難小屋〜中沼〜尿前渓谷橋

 焼石岳は冬に訪れたことのない山で、行きたいと思いながらも中々訪れることのできない山域であった。昨年初冬から佐藤君と出会ったことで、待望の焼石岳を計画することができた。
 北上山岳会の藤原さんに山の状況を聞き、中沼コースから入り銀明水避難小屋に1泊し、山頂を目指すことにした。

18日(曇り)
 私の家に6時に集合し、国道を走り石渕ダムに向かう。国道397号は石渕トンネル入口に冬期閉鎖のゲートがあり、尿前渓谷橋を渡って尿前林道の入口に駐車スペースがあった。
 佐藤君から借りたシールを着けてトレースがない林道を歩き出す。夏に走る道路の上に新しい道路があるが、状態が分からないので下の道路を進んで行く。
 新雪は20cm程積もり、雲の切れ間からは薄日がもれている。15分程歩くと左に曲がる道路があるが、曲がらなかったため尿前川を渡る道路に入ってしまい、だいぶ時間のロスをしながら戻る。
 しばらく進むと新しいトレースが現れた。どうやら新しい道路が近道のようである。やがて、男女のパーティが下ってきた。どうやらスノーハイクをしてきたようで、上に2人が先行しているという。
 5kmの林道は長く、なかなか駐車場に着かない。それでもトレースがあるから助かっているのである。トレースは駐車場の500m程手前から樹林帯に入っている。中沼に直接上がる冬道のようだ。
 さほど急な登りもなく中沼に着いた。この辺のブナ林は太く見ごたえのある美林である。中沼の水は凍て雪原となっており、真っ直ぐに伸びるトレースにしたがい進んで行く。間違いのロスタイムのせいで、もう14時半を過ぎている。
 上沼に上がると風が吹き始め、時おりトレースが風に飛ばされて消えている。雪面は硬くなったのでたいして潜らず、GPSで現在地を確認しながら風雪の中を歩いて行く。
 しばらく緩やかな登りが続き細い木の樹林帯になり、登り切ると目の前に小屋が見えた。この辺は風雪に飛ばされてトレースは消えていた。
 小屋に入ると先客の2人がおり、ビニールで囲った小部屋を作り石油ストーブが赤々と燃えていた。こちらに入るようすすめられ、ぬくぬくの囲いの中で一晩お世話になる。
 今夜の献立は、焼魚、焼エビ、刺身、野菜と鶏肉ソテーと豪華版である。荷物を整理してディナーの用意を始める。今回は魚焼き器を持参したが、これが中々美味い魚が焼けた。
 先客は北上山岳会の藤原さんの友人で、地元の方と一関の2人だ。この小屋に冬に泊まった人はしばらくぶりだと言い、ずいぶん親切にしていただき、食事を交換しながら宴席に話ははずんだ。

尿前林道の歩き始め
尿前林道の歩き始め

尿前林道
尿前林道

中沼への冬道
中沼への冬道

中沼の雪原
中沼の雪原

上沼への登り
上沼への登り


銀明水避難小屋

タイム:尿前渓谷橋(8:50)→林道分かれ道(13:00)→上沼(14:30)→銀明水避難小屋(16:40)


19日(吹雪-視界最悪5m)
 5時に起床し、朝食の支度をする。丸ストーブに火がつくと部屋は暖かくなった。餅を焼き醤油餅にし、日本そばと頂く。今回の魚焼き器は大成功である。
 彼らより一足先に外に出ると、外は風雪で視界は100m程だろうか。磁石は佐藤君に任せ、私はGPSで現在地の確認をすることにする。
 20cm程のラッセルで進んで行くと、間もなく風が強くなり視界もかなり悪くなってきた。やがて5m先しか見えなくなったが、GPSのおかげで現在地は確認できる。
 この辺の地形は横に平坦地が続くため、右に寄りすぎると何処へ行くか分からなくなる。左に寄ると横岳の稜線があるので、左寄りの方が安全ではある。
 GPSを頼りに夏道の近くをキープし、何も見えない真っ白な世界をしばらく行くと、姥石平付近の鉄柵が見つかった。ここから夏道はたどらず、頂上に真っ直ぐ登ることにし磁石を合わせる。
 泉水沼から登りが急になった所でスキーを脱ぎ背負う。、やがて山頂の真っ白い標柱が見えた。風速15m程、視界8m程で、ただ標柱のみが見える山頂だ。冬は初めて訪れる山頂である。
 下りは急斜面を下りたくなかったので、夏道沿いのコースを選んだ。ここから今回の試練が始まった。GPSでたどったルートは東成瀬村に下るコースで、視界5mで周りがほとんど見えない。
 GPSを見ながらしばらく下って行くと視界がだいぶ良くなり、そろそろ銀名水が近い頃だなと思いながらGPSをみると、違う地名が出てくるのである。画面を縮小したり、拡大したりして確認すると、東成瀬村コースへと下っていたことがわかった。
 始めはGPSが故障したのではないかと思ったのだが、故障していたのは私の頭の方だった。時間は13時半とまだ早かったが、山頂へ戻り銀明水に下るには時間が遅く、このまま東成瀬村に下ると車の回収と小屋の荷物の回収に困る。戻るか下るかにしても、今日はどこにも進めないのである。
 auの携帯電話のスイッチを入れるとアンテナが立っている。佐藤君のdocomoは圏外である。電話が通じればビバークしても家族に連絡ができる。風の当たらない場所で穴を掘れる所を探してビバークを決意した。
 まずはお互いの家族に連絡し、吹雪で動けないことを伝える。ツエルトは2つあるので、スコップで雪を掘り下げてツエルトを張る。装備はマット、ガスコンロ、食器、行動食の残り、ダウンジャケット、シュラフカバー、ヘッドランプと、ビバークには十分すぎる装備を持っていた。
 雪はしんしんと降り始めてきた。ビバーク地は、尾根上から少し下がったので携帯の電波が不安定だった。秋田の梅ちゃんに電話とメールで状況を伝え、東成瀬村方面の状況と明日の天気を聞く。
  まずは熱い飲み物と行動食の残りを少し食べる。今日は吹雪で食べる余裕がなく、あまり食べていなかったのである。食べなくても1日くらいは歩けるが、明日もあるのでアメを舐めりながらダイエットする。
 携帯の電池が無くなったが、こんな時のために予備バッテリーを購入していたのである。電池節約のため電話はさけ、メールでのやりとりをした。明日は秋田県側は天気が悪く、岩手県側は天気が回復するので、頂上に戻り銀明水へ下れとの回答がきた。
 明日、銀明水の小屋に戻っても時間的に車まで帰れないかもしれないことを、佐藤君と確認し合う。明日は役所を休ませてしまうことと、更にもう1日となると申し訳ない思いでいっぱいだ。
 起きているとガスが無くなるのでシュラフカバーに潜り、もう一つのツエルトかぶって横になる。快適とまではいかないが眠るには十分であった。だんだんに降った雪が両脇を圧迫し始めてきた。時々トイレをし、起きた時には2人で飴と甘納豆をかじった。

出発後の銀明水小屋
出発後の銀明水小屋

焼石岳山頂
焼石岳山頂

東成瀬村方面への下り
東成瀬村方面への下り

間違ったことに気がついた頃
間違ったことに気がついた頃

タイム:銀明水小屋(7:00)→焼石岳山頂(10:35)→1,200mビバーク地(14:20)


20日(吹雪のち曇り-視界最悪2m)
 5時頃起きてガスコンロに火をつける。昨夜の雪で両脇はかなり狭くなっていた。お湯を飲みながら行動食を少し食べる。外に出ると新雪は20c程積もっており、風雪となっている。
 尾根上に上がると小枝の樹氷が美しかった。登るにしたがい風雪が強くなり吹雪となった。寒いので休まずゆっくり歩くが、視界は2mとなり頼れるのはGPSだけである。
 スキーのヘッドの先の雪が突然無くなった。斜面が切れているのである。GPSを見ると南本内岳への分岐であった。山頂はもう少しである。
 緩やかな登りから傾斜が強くなり、スキーを担いで登って行く。2度目の山頂は、風速20m程、視界は5m程と昨日よりも条件が悪い。しかし、2度目の頂上は気分的に楽である。
 今度は地図と磁石で下る方向を合わせ、急な斜面を下って行く。平坦地でスキーを履き、間もなく姥石平の鉄柵を見つけた。まずは一休みして、行動食を食べる。小屋には素麺が残っていると言う。小屋に戻ったら素麺を食べようと話す。
 下るごとに視界が良くなり、やがて2人の姿が見えて手を振っている。北上山岳会の藤原さんと昨日小屋で一緒になった及川さんだった。及川さんは、昨日我々が戻らないのを心配して藤原さんに電話すると、藤原さんが夜に小屋まで登ってきたので及川さんは小屋に残ってくれたみたいだった。
 藤原さんの先導で下って行くと晴れ間が見え、その先には小屋が見えた。小屋に入り素麺を煮て空腹を満たす。タレが少なく味はイマイチなのだが、空腹のお腹にとっては何より美味しご馳走であった。
 お世話になった2人の友にお礼と別れを告げ、荷物をまとめて外に出ると視界もよくなり、横岳の稜線が風雪にかすんで見えた。シールをつけたままラッセルして行くとすぐに2人が先へと下って行った。
 真っ白い鋭い容姿の経塚山が遠くに見えた。今度は金ヶ崎の駒ヶ岳を経由して、あの白く迫力ある山頂に立ちたいと思う。私にとっては下りは辛いものがある。シールは着けているものの滑ると転んでしまう。
 中沼を過ぎてから佐藤君とザックを交換すると、彼のザックは軽く、ザックが軽くなるとだいぶ滑れるようになった。林道に降りてシールを外すと、借りたシールは滑走面に糊がひっついて剥がれず、ほとんど滑らない。せっかく調子が出てきたところなのに残念である。
 林道は長く疲れがドッとでてきて、休み休み下って行く。暗くなりヘッドランプの明かりで足元を見つめながら滑らなくなったスキーで歩いて行く。

朝の樹氷
朝の樹氷

2度目の焼石岳山頂
2度目の焼石岳山頂

下ってきた道筋
下ってきた道筋

銀明水小屋
銀明水小屋

小屋から見る横岳の稜線
小屋から見る横岳の稜線

迫力の経塚山
迫力の経塚山

経塚山と天竺山?
経塚山と天竺山?

タイム:ビバーク地(7:10)→焼石岳山頂(10:00)→銀明水小屋(12:20〜13:35)→車(18:00)


 冬山が初めてだった焼石岳は、1泊2日が2泊3日となり佐藤君には迷惑をかけてしまったが、普通の冬山では味わえない経験と教訓を教えられた山行だった。
 コースの間違いは、単純なミスが重なったためであり、その教訓はこれからの山行に大いに役たつものと思う。
 また、視界が2m〜5mで長時間歩いたのは初めてである。傾斜がある斜面であればある程度磁石で方向を定めることができるが、緩い傾斜の登り下りでは磁石ではとうてい歩けない。やはりこれはGPSの力である。
 今後はこの山行を生かすような行動と、初めて行く冬山登山を目指していきたい。
 すっかりお世話になったお二人に感謝とお礼を申し上げる。ありがとうございました。
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