一人の焼石岳
 


2017年3月26日(日)〜29日(水)
メンバー:小田中 智
コース:胆沢ダム除雪終了点〜つぶ沼〜石沼〜銀明水小屋〜焼石岳〜小屋〜中沼〜中沼登山口〜胆沢ダム


 仕事がキャンセルになり、4日間天気が安定しているので焼石連峰全山登ることを考えた。今月初め金ヶ崎駒ヶ岳から縦走を試みたが、重い雪のためあえなく敗退していた。
 単独では車を回すことができないため戻ることを考えると、胆沢ダムに車を置いて周回するのが効率がいいみたいだ。
 工程は、胆沢ダム〜銀明水小屋〜焼石岳〜三界山〜西焼石岳〜南本内岳〜金明水小屋〜牛形山往復〜天竺山・経塚山往復〜中沼登山口〜胆沢ダムが3泊4日でできると考えた。

26日(曇り)
 国道を走って胆沢ダムへ向かう。除雪終了点には4台の車が止まっており、山に入っているみたいだ。
 中沼コースは昨日のトレースはあるだろうが林道歩きが5.5km程あり、つぶ沼コースは2.6km程なのでつぶ沼コースを行くことにする。
 トンネルを過ぎると昨日往復したトレースがあり、こちらからも入山しているようだ。空には雲が多いが明るいので今日はもちそうだが、明日は天気が悪い予報だ。
 単独行は今年初めてで、一人歩きも自由気ままに行動できるので時には単独行もまた楽しである。雪道は今朝の冷え込みで固く、雪の上は潜らず快適な春の雪道だ。
 つぶ沼登山口に着くと、足跡はつぶ沼からダムの方へ行った足跡で、山へのトレース跡は全く残っていない。山へ登り始めると雪は潜るようになりワカンを付ける。
 雪は腐れておりワカンを付けても20cm程潜った。雪は重いため、これから一人でのラッセルは体力勝負になりそうだ。食料は4日分であるが装備を減らしているので、荷物は16kg程度である。
 金山沢を渡る急なトラバースは雪が多いため不安であったが、下雪が凍っていないので雪崩る心配はなさそうだ。
 岳山の尾根に出ると雪は締まるかと思ったら期待を裏切られ、ペースを守りながらゆっくりとラッセルする。石沼を過ぎると中沼方向から登山者の叫び声がした。いま下山しているのだろうと思う。
 昼過ぎには銀明水に着くだろうと思っていたが、この重い雪のため小屋が見えたのは15時近かった。
 小屋には誰もいなかったが、石油ストーブで温められたぬくもりが残っていた。雑記帳を見ると6名ほどが泊まったみたいだ。
 熱いコーヒーを飲んで少しの間昼寝する。この小屋は携帯が通じインターネットもできる。山小屋で携帯が通じるのも珍しいものだ。
 初日は豪勢にビール、濁り酒、ウイスキーを焼肉と刺身でいただいていると、ゆっくりと暗くなっていった。ラジオに耳を傾けながら、夏のツアー計画のことや今までの山登りのことを考えながら飲む。
 明日の天気予報は雪の予報だ。


胆沢ダム


つぶ沼コース


天竺山


経塚山

タイム:胆沢ダム(7:15)→つぶ沼登山口(8:00)→石沼(12:00)→銀明水小屋(15:00)


27日(雪)
 4時半に起きて外に出ると雪が降っていた。仕方なく今日は停滞と決め、今回も全山登山はあきらめることにする。朝食を食べないままシュラフに潜り込む。
 昼に近い時間に起きるとラジオでは、高校生が雪崩に埋まったニュースが流れていた。3月に入ってからの降雪は多く、今まで降らなかった分をまとめて降っているような感じだ。
 朝食と昼食を一緒にした食事をして、据付の雑記帳を読む。秋田駒ヶ岳で停滞したとき小説があればと思ったことを忘れており、停滞した時の事を考えると山での読書も良いかもしれない。
 横になりながらボーッとし、夕方になるのを待つ。まだ明るいが夕食とし、ウイスキーを飲み始める。
 明日は天気が回復する予報で、明日は頂上から三界山と西焼石岳を登って戻って来たいと思う。

28日(晴れのち風雪)
 ここ最近明るくなるのが早くなった。5時ではもうだいぶ明るい。朝食を済ませ必要最小限の荷物をザックに詰め外に出ると、上空は青空でお日様が照っていた。
 ワカンを付け歩き出すと清々しい青空の朝だ。山頂から先の行動が楽しみである。20分も登ると右に真っ白い天竺山と経塚山が霞んで見える。今回も行けないでしまうが、いつか雪がある時期に縦走したいコースだ。
 登るごとに雲に埋まり風が出てきた。下りのために所々にマーキングをして登って行くと、徐々に視界が悪くなってきた。さっきまでの青空はどこに行ったのだろうか。ある標高の高さがラインになって天気を分けているみたいだ。
 姥石平手前では視界が5mとなり、地図と磁石で方向を確認しながら姥石平の標識を見つける。この辺は平坦地なので方向を見失うと何処を歩いているのか分からなくなるのである。
 ここから横岳稜線の鞍部は分かりずら、く視界もさらに悪くなった。最終的には高い所を目指して登って行くと頂上に着くのだが、下りの事を考えると目印を確認しながら登った方が安全である。
 こんな時に役立つのがGPSだ。現在位置を25,000の地図に合わせると全体図が分かるのだからありがたい。鞍部の標識を見つけると、あとは山頂へ高い所へと登るだけだ。
 山頂の標識にはエビノシッポがくっついており雪の固まり状になっていた。風速11mほど、視界3mで見えるのは白一色である。ここからの下りが一番の問題である。
 4年前の冬、私と友人はここから間違いを起こし、戻るつもりが南本内岳側に下ってしまいビバークする羽目になってことを思い出す。しかし、その経験を活かし下りには充分注意するようになった。
 登りの足跡は風に飛ばされ、見える足跡も3mの視界ではすぐに見失ってしまう。鞍部の標識を見つけたが、姥石平の標識を見つけるのには少し苦労した。やっと見つけると安心し腹が減っていたことに気づく。
 下り始めると視界は10mとなり目印も見えるようになり、ようやく緊張が解けた。単独行は頼れるものは自分だけで、全てのことを自分一人で行わなければならないため、そのぶん充実感も大きく楽しさもある。最終的には一人でどんな山登りができるかが、山屋としての力量ではないだろうか。
 下るごとに視界は開け、どんどん下って行くと小屋が見えた。これから下山できる時間ではあるが、まだ山に居たかったので明日下山することにする。
 小屋にあった水を使わせてもらっていたので、前パーティが一昨日掘り出したという銀明水の水を汲む。今年も雪が少ないみたいで、深さは2m半ほどの深さであった。
 昼飯に予備食のラーメンを食べてシュラフに入るが、昨日たくさん寝たのでさすがに眠れなく、ラジオを聴きながら夕方を待つ。
 夕食は残っている朝以外の食料全部とウイスキーが180mlである。酒は少し足りなかったが無くなると寝るしかない。


銀明水避難小屋


姥石平へ向かう


天竺山と経塚山


天竺山と経塚山


経塚山


姥石平


焼石岳山頂

タイム:小屋(6:10)→姥石平(8:10)→焼石岳(9:25)→小屋(11:15)


29日(曇り)
 一昨日からの風雪で入山時のトレースは消されていた。新たな新雪は20cm程積もっており、金山沢の斜面は雪崩れる危険性があるので、中沼へ下ることにする。
 上沼にさしかかる時、真っ白な兎が横切っていった。沼は雪で埋まっており堂々と真ん中を歩いていく。
 中沼の標識から林道への冬道を下っているつもりだったが、左に寄って歩いていたらしく登山口に出た。
 ここから車までの林道は下りで2時間程かかる距離だ。歩き始めると日に照らされた雪が柔らかくなり、ワカンにおまけの雪団子がくっついて重くなった。
 ワカンを脱ぐと潜るが、おまけをもらいながら歩くよりはましだ。冬道の入口からはスキーのトレースがあり、だいぶ歩きやすくなった。

タイム:小屋(6:10)→中沼(8:50)→登山口(9:30)→車(12:05)

 3泊4日の日程で入った焼石岳は、結局のところ頂上往復で終わってしまったが、一人で過ごした3日間の山小屋生活は暇であったが楽しく、視界3mの中を一人で歩けたことは大きな収穫でもあった。
 今度、3日以上山に入る時は本を持っていこうと思う。
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