猿岩 KGカンテルート
 


2022年10月8日(土)〜9(日)
 メンバー:三沢 正哉さん、小田中 智
 ルート:右ルート下降〜KGカンテルート


 猿岩は、胆沢川の上流、胆沢ダムの右岸にそびえる石英安山岩質凝灰岩の一大岩峰で、その上部に於呂閉志神社(おろへいし)がありユキツバキが自生する。標高549mピークの西側に形成された柱状節理の岩壁帯は、高さは約200m、幅は300m程に広がる岩場で、山頂直下から一気に胆沢ダム湖に落ち込んでいる。
 胆沢ダムは10年ほど前に建設された大きなダムで、以前には小さな石渕ダムがあり、それを拡張したダムである。当時は集落や温泉があり、ピークの下には猿岩隧道があり、林道は一関方面へと続いていた。
 当時は隧道の手前に車を止め、山を右から回り込むようにダム湖のわきを通って岩場の取付へ向かっていた。登攀するピッチは4ピッチ〜6ピッチあり10本程のルートがある。
 岩は岩質の性質上クラックはなく、リスも少ないためボルトが多く使われ、フリクション主体の岩のためオーバーハングでなくても人口になる部分が多い。上部帯は柱状節理がぶら下がるオーバーハング帯で、逆階段状の登りとなる。大ハングルートでは4mの庇がありボルトにぶら下がりながら登る。
 当時のグレードは4級下〜5級下で、人工はA1〜A2ある。のちにフリー化され、KGカンテは5.10a、右ルートが5.10bのグレードがある。
 胆沢ダムができてからは前にあった林道と隧道が水没してしまったため、ピークから急斜面を下り4回の懸垂下降をしなければ、各ルートに取付けなくなってしまった。

 山想会に久しぶりに現役の新人が入った。いつものことながら新人の品定めととして、さっそく猿岩を登ることにした。彼は東京都に住む40歳後半の188cmと長身で、おだやかな方だった。岩やアイスは勿論のこと、昨年は単独でデナリを登っていた。
登る者がいない現在の山想会にとっては、可愛そうで申し訳ない存在の方であるが、都合のよい時に一緒に登れればとの思いである。

8日(曇り)
 彼は車で来るというので、胆沢ダム管理支所に15時集合とした。ダム湖に行ったりしながら猿岩の全容を知らせ、宿泊地であるツブ沼キャンプ場にテントを張る。
 小雨がパラつき明日の岩場のコンディションが心配になるが、屋根がついた休み屋で宴会をする。最近は酒を飲まない登山者もいる中、酒が好きな方で私との相性が良さそうだ。私は最近に膝を痛めているので心配であるが、昔に登り馴れたKGカンテだと高をくくった。

9日(曇り)
 5時に起床すると、朝露でテントはビショビショになっていた。神社の駐車場に着く頃には晴れ間があり、今日は天気が良さそうだ。神社で安全祈願をし、猿岩の頭へと急な踏み跡を登って行く。膝は少し痛くちょっと心配だ。
 KGカンテ終了点へ下るフィックスロープがある場所で身支度を整え、懸垂で下った。ザイルは8.1mmと8.6mmの50mダブルで、4回の懸垂で右ルートを下る。
 今までは、KGカンテから中央ルンゼを下降していたが、中央ルンゼはブッシュ帯がありそこは濡れているので、昨年から右ルートを下ることにした。しかし、右ルートの下部は黒い岩垢が濡れていて滑るので、今日の状態では右ルートは登れない。さて、KGカンテの1ピッチ目はどうだろうか?
 小田中リードで登り出すと、岩はいくぶん湿っている感じでフリクションが滑りやすい。フリーはあきらめ支点を掴みながら登って行く。
 10mほど登りV字のアングルハーケンに、全体重をかけると落ちてしまった。5mほど落ち上半身が水平になって止まった。アングルハーケンは見事に真ん中から腐れて折れたため落ち、左の尻を打っただけで特に異常はなかったが、ビレイ点まで降ろしてもらった。
 尻が痛いことを理由にトップを交代してもらった。前にもハーケンが折れて落ちていたが、初登時からすると40年以上もの年月が経っているので折れても不思議ではない。
 2ピッチ目はリードで登ろうとしたが、墜落のせいか下手くそせいかリードができなく、またもやトップを変わってもらう。今日は終始セカンドで登らせてもらうことにお願いした。今年は雨続きで岩を登る機会が少なく、2ヵ月以上も岩に触れていないのである。
 ぶっつけた尻の他にシューズが小さいので爪先が痛く、登りに全く余裕がなく写真を撮る余裕もない。マルチピッチではシューズを変えないと駄目のようだが、もうマルチピッチは終了なのかもしれないのである。
 核心部のジェードルの取付きではすでに13時を過ぎており、雨が降り出しそうな雲行きだ。ここから見るダム湖は綺麗なのであるが、曇り空で湖水もドンよりとしていた。
 三沢さんはさすがに安定感があり上手で、ワンプッシュで核心を越えていった。私は隠し持っていたアブミを出して登り出すが、つま先が痛いのと尻が痛いので足が上に上がりづらく、アブミにも乗れない何ともぶざまな登り方である。核心部付近で体重をかけたハーケンが抜け、またしてもぶら下がった。
 このピッチ以降は、真新しいボルトが打ってあり、北上山岳会の方が遊んでいるようだ。そういえば、右ルートを下降中に新しいビレイ点のボルトが打ってあり、右ルートのビレイ点は確保された。できればこのKGカンテ核心部のピッチに、リード用のボルトを打ってもらうと有難いのであるが。
 やっと長々とかかってしまった登攀も終わり、握手を交わす。握手というか引っ張り上げてもらったお礼の握手である。
 駐車場に着くころには薄暗くなっており、今の私にとって猿岩は難しい岩場になってしまった。若かりし頃、この岩場でトレーニングを重ね谷川や穂高の壁を目指し、スピードをつけるために1日で3本のルートを登ったのである。しかし、そんなことは過去の昔話であり、これからはもう少しの間だけ、楽しい岩登りをしたいものだ。


尾根からの下降するフィックスロープ


KGカンテ医大ルート1ピッチ目


登り出し


3ピッチ目上部


3ピッチ目終了点付近から


5ピッチ目

5ピッチ目核心部


ダム湖右側


ダム湖左側


於呂閉志神社(おろへいしじんじゃ)


おろせ広場



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