五竜岳〜鹿島槍ヶ岳縦走 敗退
 
五竜岳
五竜岳

平成25年5月2日(木)〜5日(日)

 メンバー:梅田 正弘(盛岡山想会)、小田中 智(盛岡山想会)、桜庭さん(五竜岳まで)、町田さん(西遠見山まで)
 コース:白馬五竜リフト〜遠見尾根〜白岳〜五竜山荘〜五竜岳〜G4〜赤抜 往復


 梅ちゃんの休みに合わせ、遠見尾根から五竜岳、八峰キレットを通過して鹿島槍ヶ岳を登り、赤岩尾根を下山するコースを計画した。
 このコースは昔、盛岡山想会の冬山合宿で通っており、楽しめるバリエーションルートのはずであった。
 桜庭さんが参加することになり、彼とは五竜岳まで一緒に行動し、その後、単独で唐松岳から八方尾根を下山し我々が下山する大谷原に迎えに来てもらうことにした。
 
 前半のゴールデンウィークは天気が悪く新雪が積もり、我々が行ってから天気が良くなったみたいで、山は冬と同じ状況であった。
 五竜岳から八峰キレットに向かっている途中に事故は起きた。赤抜のピークに登る岩稜帯で私が浮き石をつかみ富山県川に墜落し雪面を滑落した。150m滑落して運良く木に引っかかって止まった。ザックは身代わりとして下へと消えていった。体は肋骨を強打したが歩くことができたので、自力で五竜山荘へ引き返した。
 この滑落により五竜岳〜鹿島槍ヶ岳縦走は敗退となってしまった。ルート的にも技術的にも我々の技量からすれば問題のないルートであり、ただ私のうっかりミスが原因であった。

2日(雨)
 北秋田市の梅ちゃんの家に18時集合なので、15時に家を出て高速道を走る。集合地まで数km手前で交通事故があり、車は通行不能になってしまったため、合間駅の方から迂回し梅ちゃんの家に着く。
 遠征車は梅ちゃんの車なので荷物を積み込み、新潟経由で長野に向かう。運転は2時間交代とし、1名は後部で眠ることにする。時々強い雨が降るが、明日からは天気が回復する予報である。
 時間的には余裕があるので、夕食や休憩をしながら交代で走って行く。

3日(快晴)
 白馬五竜の駐車場には3時頃に着いたようで、しばらく車の中で眠る。テレキャビンの始発は8時15分なので、各自朝飯を食べたりしながら時を待つ。
 梅ちゃんの友人で地元の町田さんがやってきた。我々が来るということで、明日は仕事のため遠見尾根の途中まで一緒に登り、下山するということでわざわざ来てくれた。町田さんはトレイル登山をやっているだけあってほっそりとした体型で、山々を走って登る風体だ。
 テレキャビンの始発時間も近づいたので並ぶと長蛇の行列となり、なかなか先へと進まない。結局1時間ほどもかかってリフトの最終駅に着いた。
 天気は快晴で、まだたくさん雪があるゲレンデではスキヤーたちが楽しそうに滑っていた。登山者もかなりな人数で、尾根には列ができていた。追い越し追い越されながら、玉のような汗を流しながら登って行く。
 急な登りで一ノ背髪に着くと、目の前に濃い青を背景に、五菱が刻まれた五竜岳の上部が見えた。空の青と岩の黒、雪の白のコントラストがとても美しい。
 小遠見山まで行くと五竜岳の全容が目の前に迫り、左には鹿島槍ヶ岳、右には唐松岳の山並みが続き、写真を撮るため立ち止まると疲れた体にはちょうど良い休みとなる。
 起伏を越えていくにしたがい前方の山々はますます迫ってくる。今から38年前の20歳の冬、山想会の冬山合宿で私はここにいた。ルートは五竜岳から八峰キレットを経て鹿島槍ヶ岳に登り赤岩尾根を下った。その時はこのような光景が見えたか記憶にはない。
 西遠見山で町田さんは帰っていった。ここから白岳の登りは長くきつい。夏道は白岳をトラバースしているが、冬は雪崩の危険があるため尾根通しに登る。一昨日に新雪が積もったためトレースは尾根通しについている。まあ、ラッセルしないだけでも楽ではあるが、体力的にはきつくなってきた。
 白岳からはほとんどが雪に埋もれた五竜山荘が見えた。小屋の近くにちょうど良いテントサイトがあり、テントを2張り張るためサイトを広げ整地する。白岳の下までは天気が良かったが、上に登るにしたがい悪くなり五竜岳の姿はもう見えない。
 テントの中は風が入らないだけでも暖かく感じられ、荷物を整理してガスストーブをつけるとすぐに暖かくなった。まずは梅ちゃんが持参した豆をひいたコーヒーを飲む。
 明日の分の水も作り、まだ早いが夕食とする。今夜はホルモン焼きの生ものだが、明日の朝からは軽量化のため全て乾燥食品である。ホルモンが焼けた頃ビールで乾杯する。
 隣のテントにいる桜庭さんを呼んで一緒に飲む。寝不足と明日の朝が早いため、早々にシュラフにもぐる。夜中にトイレで外に出ると、神代の街の明かりが輝いて見えていた。

左から 桜庭さん、梅田 正弘、町田さん
左から 桜庭さん、梅田 正弘、町田さん

白馬五竜スキー場
白馬五竜スキー場

遠見尾根登り出し
遠見尾根登り出し

町田さんと桜庭さん
町田さんと桜庭さん

遠見尾根と五竜岳
遠見尾根と五竜岳

唐松岳
唐松岳

中遠見山付近
中遠見山付近

鹿島槍ヶ岳
鹿島槍ヶ岳

五竜岳をバックに
五竜岳をバックに

八峰キレットへの稜線から鹿島槍ヶ岳
八峰キレットへの稜線から鹿島槍ヶ岳

五竜山荘と我らのテント
五竜山荘と我らのテント

鞍部からの上部
鞍部からの上部

タイム:リフト終点(9:15)→中遠見山(10:30)→西遠見山(12:00)→白岳(14:10)→五竜山荘(14:30)


4日(晴れのち風雪)
 少し寝坊してしまって4時半の起床となってしまった。早々に朝食をすませ、パッキングをして外に出る。風はあるが天気は良く、五竜岳が間近に迫って見えている。
 テントを撤収して3人で出発する。桜庭さんは五竜岳から戻って遠見尾根を下山するので、彼のテントは張ったままで空身での行動だ。私の荷物は食料なので昨日より2kg程軽くなり、個人装備も軽量化してきたのでザックの重量は14kg程である。
 先行パーティのトレースをしばらくたどっていくと稜線から左に外れ、夏道沿いに歩いていたため進めなくなっていた。冬は稜線沿いに登った方が歩きやすいのだ。急斜面を左にトラバースするが1ヵ所悪いところがあり2歩下ってトラバースする。後続パーティはしばらく登れないでいたようだ。
 稜線沿いについたトレースを登って行くと、10人程が集まっている五竜岳山頂に着いた。山頂から少し下った所でハーネスを装着する。梅ちゃんは風邪で調子が悪そうなのでザイルをもらう。
 桜庭さんと別れ、いよいよ八峰キレットへと下って行く。先行パーティのトレースがあるが、新雪があるため春山というより冬山に近いコース状況だ。
 G4の下りは雪壁があり先行パーティは懸垂下降したみたいだ。ピッケルとショートピッケルの組み合わせで後ろ向きになって一歩いっぽ慎重に下る。
 G5でようやく北尾根ノ頭の先にいる先行パーティが見えた。我々より2時間ほど先に進んでいる様子だ。G5の鎖場を下り、赤抜の乗越しの岩場で事故は起きた。先頭の私が浮き石を掴み、体は岩から離れた。そして、その下の雪の斜面に落ち滑落した。
 2回転し、なおも滑っていった。そして木に体が引っかかり二つ折になった状態で止まった。脇腹の苦しさで少しの間動けなかったが、上に梅ちゃんの姿が見えたので手を振る。
 滑落距離は150m程であろうか、直径8cm程のダケカンバの木に引っかかって止まったのである。背中にあるはずのザックは無くなっていた。まずは木にセルフビレイをとる。下を見ると、下に雪の斜面が東谷に続いているように見えた。一瞬、荷物を回収に下ろうかと思った。
 後で梅ちゃんに尋ねると、岩から離れた体は雪面に足から着地し、逆さまに滑り2回転し、ザックが体から離れたと同時に体の流れが変わり木に引っかかったという。とすると、ザックが体から離れなければ下へと滑っていったことになる。
 家に帰って地図で調べてみると、滑落して止まった下には岩があり密度が狭くなって更に岩の印があり下へと続いていた。上から見た時は岩場は見えなく、下の斜面が見えたことになる。
 つまり、ザックは私の身代わりとして落下し、私も落ちていればたぶん死んだことになる。
 体を動かすと痛い所は脇腹だけで、痛いが歩けそうだ。この痛みは肋骨にヒビが入っているか骨折していると思われる。家に帰ってから病院に行くと、肋骨2本が折れていた。
 ピッケル2本は肩バンドをしていたので体についており、ゆっくりと稜線に向かって登っていき、梅ちゃんと合流する。そして、五竜山荘に向かってゆっくりと登って行く。こうして五竜岳から鹿島槍ヶ岳の縦走は敗退となってしまった。梅ちゃん、ごめん。
 五竜岳に登っていくにしたがい天気は悪くなり、稜線に着く手前からは風雪となっていた。下りのトレースを見つけながら下って行くが、視界は20m程しかない。梅ちゃんも体調が悪くペースはかなりゆっくりではあるが、緊張感を緩めないで、GPSで現在地点を確認しながら下って行くと、やっと五竜山荘に着いた。
 梅ちゃんはテントを背負っているが、私はシュラフも何もなく、おまけに食料もなくなったので、梅ちゃんの現金を頼りに小屋へ宿泊する。食事の時に飲んだビールがなんと美味しいことか、自力で下れたことに感謝する。
 体は痛く、明日の行動が心配になる。一人では横になれなく手伝ってもらって横になるが、右への寝返りは大丈夫だった。明日は這ってでも自力下山しなければならない。

五竜岳
五竜岳

五竜岳山頂
五竜岳山頂

八峰キレットから鹿島槍ヶ岳
八峰キレットから鹿島槍ヶ岳

八峰キレットへの稜線
八峰キレットへの稜線

振り返った五竜岳
振り返った五竜岳

赤抜の手前からの鹿島槍ヶ岳
赤抜の手前からの鹿島槍ヶ岳

下る梅ちゃん
下る梅ちゃん

タイム:五竜山荘(6:00)→五竜岳(7:35〜40)→G4(9:30)→G5(10:30)→赤抜(11:25〜12:15)→五竜岳分岐(15:30)
    →五竜山荘(17:30)

5日(快晴)
 今朝は天気が良いらしく、同室の人たちはみんな外へ出ていった。現金の持ち合わせから朝食は無いので、皆んながいなくなるまで横になっている。トイレに行けたのでどうにか歩けそうだ。
 外に出ると快晴で、素晴らしいご来光が見えたことであろう。アイゼンを履かせてもらって、白岳をトラバースしながら下り始める。さすが、この天気では朝から下山する者は私たちだけだった。
 遠見尾根から眺める山々は、来る時よりも鮮やかに美しく輝いていた。そして、来る時には見えなかった白馬三山が素敵に美しかった。
 ゆっくり下りながらも体にショックをかけないよう注意しながら下って行く。持ち金はテレキャビンの乗車賃が1人分しかないので、ようやく連絡が取れた桜庭に上まで迎えに来てもらうことにする。
 桜庭さんは、コース状態が悪いので五竜山荘から遠見尾根を下山する予定であったが、昨日は先行パーティのトレースがあったので計画通り唐松岳へと縦走し、八峰尾根を下山したという。

五竜岳
五竜岳

鹿島槍ヶ岳
鹿島槍ヶ岳

唐松岳と八峰尾根
唐松岳と八峰尾根

白馬三山
白馬三山

タイム:五竜山荘(7:00)→テレキャビン山頂駅(11:15)

 駐車場は暑かった。白馬の街で昼食を食べ、車は秋田へと向かって走る。私は後ろに横になってしばらく眠る。道路のデコボコの振動は敏感に脇腹へと伝わってきた。
 北秋田市の梅ちゃん宅で皆と別れ、マイカーで家路につく。家に帰り着いたのは12時頃だった。

 今回の事故について特に反省点はないが、いくつかの偶然の重なりと天命により助かり、自力で無事に下山できたことに感謝する。そして、敗退したことで梅ちゃんに申し訳なく思う。

★ザックは赤抜から東谷へと落ちでいったので、もし回収できる方がいましたらお願いします。お礼をします。
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