朝日連峰 天狗相撲取山〜三方境 往復
 


2021年5月6日(木)〜9日(日)
 メンバー:藤原 豊さん、小田中 智
 コース:大井沢南俣沢出合〜竜ヶ池〜天狗小屋(泊)〜二ッ石山〜高松峰〜狐穴小屋(泊)〜三方境〜二ッ石山〜
     天狗小屋(泊)〜竜ヶ池〜南俣沢出合 


 今年もコロナの影響でアルプスは止めにしたので、東北の山を探した。写真を見て、ピラミット型の山容をなす朝日連峰の障子ヶ岳に行きたいと思った。岩手からだと1泊2日で登れるが、せっかく遠くに行くことを考えるともったいないので、3泊4日で以東岳まで行くことにした。
 1日目は竜ヶ池から天狗小屋に泊まり、2日目は天狗角力取山から二ッ石山、狐穴小屋から以東小屋泊、3日目は以東岳から1日目に泊まった天狗小屋泊、4日目は障子ヶ岳から紫ナデを経て南俣沢出合に下山する日程とした。
 パートナーは、若い頃のザイルパートナーだった二戸の藤原君である。小屋泊なのでテント無しで、装備・食料の全ては個人の持ち物とした。最近は20kg近い荷物は背負えなくなったので、軽量化で工夫しなければならない。

朝日連峰 大朝日岳(1,870.8m) 百名山、花の百名山
 朝日連峰は、山形県と新潟県の県境をなす隆起山地で、飯豊連峰とともに越後山脈の北端に位置する。古生層を基盤とする古い山地だが、なかでも大朝日岳付近で見かける縞模様の花崗片麻岩は、朝日連峰の誕生の古さとその生い立ちを示している。
 連峰の中心は、大朝日岳から西朝日岳、竜門山、寒江山、以東岳へと続くおおらかな起伏を見せて連なる主稜と、枝分かれした支尾根を含む南北60km、東西30kmの山塊である。
 日本海からわずか40kmという位置と、南北に走る連峰という立地条件から、有数の豪雪地帯としても知られている。雪は季節風の影響で、偏東積雪現象をもたらし、雪崩となって山稜を削り取り、非対称山稜を形成している。
また、稜線上の砂礫地には、氷河周辺に現れる高山特有の地形も見られ、標高の割には自然条件の厳しい山域である。
 稜線上の豊かな高山植物とともに、山麓から山腹にかけて這い上がるブナの原生林は、朝日連峰の大きな特色となっている。そして、これらが豊かな野生獣をはぐくみ、三面マタギをはじめとする人々の猟場となっていた。一方、谷は隆起に逆らうように、豪雪と豊かな水流による浸食で深く削られている。

以東岳(1,772m) 二百名山
 朝日連峰の北端に位置し、山形県鶴岡市と新潟県村上市の境をなしている。大朝日岳の端整な三角錐に対し、累々と花崗岩の岩塊が肩を寄せ合う重量感あふれる山容である。山頂から主峰大朝日岳への山並みは、ほぼ高さのそろった山々が連なっている。これは隆起した山塊が、浸食により隆起準平原化したものと考えられている。
 北方は、切り立った戸立山、なだらかな茶畑山へと続き、そのかなたに双子のような月山、鳥海山を望むことができる。
 山頂の北西800m下方には、熊のなめし皮の形をした大鳥池が、ブナの原生林に囲まれて横たわっている。山形県最大の湖沼で、標高966mにある高山湖だ。イワナやヒメマスのほか、幻の怪魚・タキタロウが釣りブームを反映して話題になっている。

障子ヶ岳(1,482.1m)
 朝日連峰主稜線の三方境から北に派生する通称二ッ石尾根上に位置する岩峰で、鶴岡市と西村山郡西川町の境をなしている。障子とは、一般的に屏風や幕と同じく大きな岩壁の呼称である。
 南面は、大井沢川の支流、中先沢の谷底までおよそ300mのスラブ状の岩壁をなし、「紫ナデ」と呼ばれている。朝日連峰では、南の祝瓶山東面および西のエズラ峰東面と並ぶ代表的な岩場である。
 近くに月夜の晩に天狗たちが相撲を取り合うという天狗角力取山がある。花崗岩の風化した白砂が敷きつめられ、早春には帚の掃き目(構造土現象の条線砂礫)が見られ、四隅には勝負検査役が座る石塚まである。ファンタジックな夢を呼ぶ所である。
 すぐ近くの天狗小屋には、天狗のお面が飾られている。ここから障子ヶ岳経由で大井沢に下るコースがある。

6日(晴れ)
 6時に自宅に来てもらい、私の車で高速道に乗る。今日は竜ヶ池から天狗小屋までなので急ぐこともないのでのんびりドライブする。車に乗るとスピードを出したい性格なので走っている時は早い。今日は連休が終わった平日で、仙台付近は通勤車両で混んでいた。
 大井沢の橋本荘から右に入り南俣沢出合に向かう。付近には雪が全くないので登山口まで入れるかと思ったら、少し手前で通行止めとなっていた。車がないので登山者は私たちだけのようだ。
 20分ほどで南俣沢出合に着いた。沢の奥には障子ヶ岳方面の白い山が見えていた。天気が良く新緑がきれいでのどかな景色で昼寝したい気分だ。
 尾根への登りは残雪があり分かりずらかったが、急登をこえるとカラマツ林となりカタクリがいっぱい咲いていた。
 登山道には雪はなく、しばらく行くとイワイチョウ、タムシバが咲いており今が一番見ごろのようだ。藤原君は酒のつまみにとコシアブラを摘みながら登っていた。
 竜ヶ岳が近づいてくると残雪で夏道を見失い、GPSと25,000の地図を見比べると登山道は異なっていた。どうやらGPSの地図が間違っているみたいで、前回の火打岳もそうであったが、山形の山は余計に地図が違っているようだ。
 戻っても夏道は分からないと思うので、アイゼンを着けて右へと急な斜面をトラバースして行く。やがて雪上に古いト足跡を見つけ登山道に合流した。残雪がいっぱいあれば夏道に関係なく直線的に歩けるのだが、今の時期は夏道を外すと大変な藪漕ぎに迷い込んでしまうので、気をつけなければならない時期である。
 竜ヶ池は雪に埋まってはおらず二つに分かれており、そのずっと向こうには木陰から葉山が見えている。ここからは雪があるので歩きやすそうだ。私の荷物はアイゼンを入れて14kgにおさえて来ていたが、時間が経つほどに重く感じるようになってきた。
 尾根に出ると正面に小朝日岳から寒江山までのまっ白く美しい山稜が見え、ずっと右には最終日に向かう障子ヶ岳の雄姿が見えていた。そしてその左には、今日最後の登りである粟畑のピークがある。
 急というほどの登りでもないが疲れる登りを終えると粟畑で、ミラミッド型にそびえる障子ヶ岳が近くに見える。もう17時で陽が陰ると寒くなったのでカッパを着る。天狗小屋はもうすぐのはずである。
 下って行くと天狗角力取山の下に小屋が見えた。小屋に向かって斜面を真っすぐにトラバースして行く。やっと着いた小屋の側には、雪解け水が流れておりラッキーだ。小屋は中も小ぎれいで、山形の小屋はどこもきれいな感じがする。
 さっそく宴会にし、摘んできたコシアブラを茹でて食べたら、甘みがありほんのりと苦みもあり美味しかった。今回は乾燥物が多いが生肉は持ってきており、ウイスキーは700ml持参した。何を削ってもアルコールだけは減らせなく、アルコールが無いなら泊まらない方がましである。
 藤原君とは昨年5月の焼石岳縦走以来であるが、これから3日間は四六時中一緒の仲になる。彼がクライミングを止めたのが残念である。


南俣沢出合 新緑が美しい


カタクリがいっぱい咲いていた


イワウチワもいっぱい咲いていた


タムシバもいっぱい咲いていた


タムシバ


登ってきたルートの奥に月山


竜ヶ岳 ここは右から巻いて進む


竜ヶ池 奥の山は葉山


左から小朝日岳、大朝日岳、西朝日岳、竜門山、寒江山


障子ヶ岳


拡大した障子ヶ岳


粟畑から見る天狗角力取山 奥に左から大朝日岳、西朝日岳、竜門山、寒江山


天狗小屋 奥に竜ヶ岳

タイム:南俣沢出合(10:10)→竜ヶ池(15:10)→粟畑(17:00)→天狗小屋(17:25)


7日(高曇り)
 5時起床。昨夜は19時過ぎに寝たのだが、最近はいくら寝ても眠い。家ではなかなか熟睡できないが、山では疲れもあってか熟睡できる。もう少し経つとずっと眠っていれるのだから、眠くならなくてもいいのだが寝るのが楽しみになってきた。
 今日は曇りであるが山々は見えているので、今日の長い道のりでは暑くなくていいのかもしれない。下り始めると夏道が出ており、所々に残雪が残っているが雪がない方が多い。雪があると歩くのが楽なのだが、途中で切れてしまうので夏道を歩く。
 道にはカタクリの花がたくさん咲いているが、まだ朝の寒さで小さくうつむいている。見るからに主稜線への道のりは遠く、登り下りも多く今日は体力勝負だ。しかし、体調は悪く登りになるとヘトヘトだ。とても以東岳まで行けそうにない気がする。
 50分歩いて休んだ時の水がなんと美味いことか、残雪があるので冷たい水も飲めるし水も増やせる。コバラメキで昼食にする。今回は軽量化のため昼食はアルファ米で、ポットのお湯を注いで3分待つ。3日間の昼食はアルファ米とお椀麺である。
 スポーツ店で販売している尾西食品のアルファ米は、お湯を注いでから15分と出来あがるまで長いので昼食としては使えない。それに比べ永谷園のフリーズドライご飯はお湯で3分、水で5分と出来上がりが早く美味しい。お椀麺はコップがあるとカップ麺みたいになるので器がガサばるスペースもない。
 水に雪を入れ冷たい水を飲み、エネルギー源のゼリーを飲んでゆっくり昼食時間を過ごした。
 岩稜を登り高松峰へと登って行くと、昼食前までは調子悪かった体調が回復した。原因は定かではないがエネルギー源が効いたように思う。この体感は初めてで、エネルギー源は少々重いが持って歩くことにしよう!
 高松峰から眺める以東岳は大きい。狐穴小屋への近道分岐で、藤原君に以東岳へ行くかどうか尋ねると、行かないと言うので今日は狐穴小屋に泊まることにする。明日は風が強い予報だったのでそれでもいいし、早く酒を飲めるのもうれしい。
 小屋には誰もいなく2日間まったく誰とも会っていない。ウイスキーを数口飲み、私は昼寝をする。5時前から宴会をし6時過ぎにはシュラフに入った。健康的な生活というか寝てばかりの登山である。


これから向かう尾根 主稜線の出合いの左に三方境、その左が寒江山


左から小朝日岳、大朝日岳、西朝日岳、竜門山、寒江山


ふり返った天狗角力取山 左にチョコンと出ているのが障子ヶ岳


中央が三方境、その左から北寒江山、寒江山、南寒江山


以東岳の全容


北寒江山


狐穴小屋と以東岳


以東岳 右端がオツボ峰


狐穴小屋にあった案内地図

タイム:天狗小屋(6:40)→二ッ石山(10:00)→高松峰(13:25)→狐穴小屋(14:30)


8日(強風のち曇り)

 朝起きると強風の音に雨の音が加わった。身支度を整えたが様子を見るために出発を後らせるので、横になって居眠りをする。今日は寒江山に登って天狗小屋までであるが、そろそろ限界時間なので出発する。
 アイゼンを着けて雪渓を登り夏道に入る。雨は止んだが風が強くよろめくほどだ。風速は20mを越え25m近くありそうだ。三方境まで登ったが、風は収まりそうにないのでここから天狗小屋へと下山することにした。
 先日の4日、寒江山で倒れている方が心肺停止で亡くなった場所である。今と同じ状態に霙が降っていたものと想像する。年齢を重ねると寒さに弱くなり、それが持続していくと寒さで体が動かなくなるのである。ザックに衣類やツエルトが入っていても体が動かないため、ザックから取り出すことすらできなくなる。
 そうなる前に戻るか服装を整えるかしなければならないが、冬山の経験が少なく単独だとそういうことが分からず、まして一人だと助け合うことができない。
 稜線に出る前に天候判断をし、服装をチェックしてほしい。衣類を着こんでも暑くて低体温症になることはなく、みんな寒くて低体温症になっているのである。
 下り始めると風は稜線に遮られて弱くなり、やがては日がさし始めてきた。高松峰付近ででアイゼンを外し下りオバラメキの岩場の下りでコケた。
 岩との接点の雪が崩れ、出した足がめり込んだため体が前転してしまった。一回転した時、目についた小枝を掴んだので止まったが、掴み損ねていたら雪の斜面をしばらく滑って行ったと思われる。カッパを着ているので雪面ではよけいに滑るのだ。
 前回怪我をした時には、枝を掴み損ねたから下まで落ちて行ったのだ。最近、年のせいか転ぶ回数が多くなってきたので、これからは気をつけて下ることにしよう!
 暑くなってきたのでカッパを脱ぎ下って行くと、登山道一面にカタクリが咲いていた。登る時はそんなに多くはなかったが、この2日間の暑さで一気に咲き始めたようだ。
 登りも長い尾根だったが帰りも長い。そして最後に天狗相撲取山への長い登りが待っているのである。ゆっくりゆっくりと登り山頂に着くと小屋が見えた。
 先に行った藤原君と合流するが、今日も誰もいなく貸し切りだ。今夜は最後の夜であり、焼肉とパスタである。 今回の夜食は、肉とパスタにした。肉は重いがせめて肉を食べないと明日の活力にならない。700ml持参したウイスキーは150mlほど残してしまった。ずいぶん飲めなくなってしまったものだ、今しか飲む時がないものなのに!


三方境にて


三方境にて


下る尾根 真ん中奥に天狗角力取山、その左に障子がヶ岳


オバラメキの岩稜


二ッ石山付近から見る天狗角力取山と障子ヶ岳


ショウジョウバカマ


ミヤマキンバイ 今年は花が咲くのが早いみたいだ



天狗角力取山


奥に朝日連峰主稜線

タイム:狐穴小屋(9:00))→三方境(9:30)→二ッ石山(13:15)→ウツノシマ峰(15:05)→天狗小屋(16:25)

9日(小雨降ったり止んだり)

 朝食はラーメンと携帯おにぎりである。いつもは切り餅であるが、軽量化のためアルファ米おにぎりである。お湯を注いで15分ででき、一番最初におにぎりをセットし、その後ラーメンを作ると無駄な時間が無くなる。50gの重量で出来上がりが109gになるので、私にはラーメンと組み合わせるとちょうどよい。
 今朝は小雨降りだ。カッパを着こみアイゼンを着けて出発する。粟畑に登るが雨は小雨ながら天候回復の兆しがないので、障子ヶ岳経由は止めにして竜ヶ池から来た道を戻ることにした。けっきょく今回は大きいピークはどこも踏めなかったことになるが、このコースを主稜線まで往復したことだけでも意義があることだ。
 雨は降ったり止んだりとカッパは最後まで着たが、焼峰付近はイワイチョウがたくさん咲きタムシバもきれいだ。登る時よりも花が多く咲いていた。そして雨に濡れた新緑も美しく、これが日に照らされたらもっと美しいことだろう。
 林道に出ると湿地帯にはミズバショウが咲いていた。4日間誰とも会わず、全くの貸し切りの朝日連峰登山は終わった。食料を軽量化に工夫し、60Lの新しいザックを購入し、今回のためにいろいろ工夫したことも楽しかった。


天狗小屋にて


粟畑の少し上から 障子ヶ岳


障子ヶ岳 3月下旬から4月上旬に訪れたい


竜ヶ池


ムラサキヤシオツツジ 咲くのが早い


ミズバショウ

タイム:天狗小屋(7:00))→竜ヶ池(8:40)→南俣沢出合(10:55)  

 まずは大井沢温泉に入り4日間の汗を流す。ここの入力料は300円と安い。昼食場所を探して大井沢集落を右往左往するが日本そばしかなく、橋本荘で手打ち山菜そばを食べた。山菜は初めて食べるものが多く、調理の仕方でずいぶんと美味しくなるものだ。
 高速道に乗りひたすらブッ飛ばして、夕方矢巾に着いた。藤原君は二戸までこれから2時間かかるのである。
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