錫杖の森側から見る白岩岳
2014年3月26日(水)〜28日(金) メンバー:嶋脇さん、小田中 智
コース:抱返神社〜687mピーク〜711.7mピーク〜白岩岳〜錫杖キレット入口 往復
嶋脇さんは昨年の夏から、日帰りで白岩岳から錫杖森を越えて和賀岳へ登ることで通っていたが、時間と藪にはばまれて登れなくていた。
雪のある時期ならブッシュはないので、3月に2泊3日で白岩岳から錫杖森を経て和賀岳に登る依頼をいただいた。
登ったコースを引き返すのは岩手県側へ縦走するよりも大変なので、和賀岳から大荒沢岳を越えて貝沢へ下る計画をした。
登るコースは、白岩岳へのコースとして入角林道から夏道があるが、雪のある時期は林道歩きは長いので、抱返神社から白岩岳へ伸びている尾根(通称:冬道)から登ることにする。
下山コースは、沢尻岳から貝沢への夏道コースがあるが、距離が近い前山分岐から直接貝沢に伸びている尾根を下ることにした。
問題は、車を1台下山口にデポしなければならないので、前日を移動日として、取り付きルートの抱返神社に泊まることにする。嶋脇さんは6日の休みがあるので、1日を予備日にすることができるので、無理のない行動が予定できる。
コースは、抱返神社〜白岩岳〜錫杖の森(付近に幕営)〜小杉山〜和賀岳〜根菅岳鞍部(幕営)〜大荒沢岳〜沢尻岳〜前山分岐〜貝沢で、錫杖キレットの通過には8mmのザイルを用意した。
嶋脇さんからこの計画の了解をいただき、出発の準備をした。
25日(曇り)
14時に雫石駅で嶋脇さんと待ち合わせたが時間に遅れたため、直接貝沢付近まで来ていただく。車を置く場所をナビで調べ、嶋脇さんの車をデポし、私の車で抱返り渓谷に向かう。
抱返神社の駐車場に車を止め、食事をしながら語り合い、車に寝る。
26日(曇り時々晴れ)
カップラーメンの朝食をすませ、出発の準備をする。今回は登攀用具があるので、私のザックは20kgの重量があった。背負うとやはり重く、ベストは17kg以下である。
ひっそりとたたずむ抱返神社の脇から抱返り渓谷の入口へと歩いて行く。赤い長い吊り橋を渡ると、そこからは足跡のない雪原である。ここから伸びている尾根は通称冬道と友人から教わったが、歩くのは初めてである。地図を見ると夏道がある入角林道から歩くより距離が短い。
GPSと地図で確認し、ワカンを付けて急な登りから尾根に取り付く。昨日は小雨が降り、今朝も気温が高かったため、ワカンを着けても雪は20cm程もぐり、時おり膝まで踏み抜くと、重いザックでの潜りは辛いものがあった。測量のため木にはマーキングされており、ちょうど良い道しるべとなった。
思ったより夏道の合流点の711.7mピークは遠く、昼過ぎにやっと着いた。ピークといっても平坦地で、この付近のブナ林は太く美しい。
白岩岳までは距離的に半分で、思わぬ雪の潜りで時間がかかり過ぎていた。このぶんでは幕営地は、白岩岳を越えれるかどうかくらいだ。
少し進むとやっと展望がよくなり、白岩岳から北東に続く尾根が見えるが、白岩岳ははるか先に見える。しばらく緩い傾斜の登りが続き、やがて尾根が細くなってくると左側には雪庇が張り出してきて、いくぶん傾斜のある登りになってきた。
もうすでに17時になろうとしているが白岩岳はもう少し先なので、テン場に適した所を探し始める。登りの途中に狭い平坦地があったのでテン場と決める。いくらか傾斜があるので掘ってならす。
もう少し雪が硬いと楽に歩けるが、今日は思わぬ潜りと重いザックで疲れた。熱いコーヒーを飲んで荷物を整理し、夕食の仕度にかかる。今夜はサラダと刺身、水たきである。
汗を流したあとの冷たいビールは美味しい。水たきをつまみにウイスキーをゆっくりと味わい、20時前にはシュラフにもぐる。
抱返り渓谷 神の岩橋
711.7mピークへ続く冬道の尾根
711.7mピークのブナ林
711.7mピーク鞍部の上から 白岩岳に続く尾根
711.7mピーク鞍部の上から
白岩岳手前稜線の雪庇
タイム:抱返神社(7:05)→711.7m夏道合流点(12:10〜20)→テン場(17:10)
27日(晴れ)
5時に起床し、朝食後テントを撤収する。今朝はいくらか冷えたため、雪はいくらか締まっており、尾根の先には太陽が昇っていた。今日は良い天気だ。
間もなく細い尾根の先にのっぺりした白岩岳が、太陽に照らされて輝いている。とても美しい光景だ。これからの時期はますます雪景色が美しくなる。
山頂は真っ平らで、GPSで山頂を探す。前方には、朝日岳から和賀岳、薬師岳までの和賀連峰の峰々が太陽にかすみながら一望できた。そして、南方には白岩薬師から小滝山へ続く峰が輝いている。
錫杖の森へと進んで行くと間もなく、小杉山へ続く尾根が見えてきたが、先はかなり遠い。今日はどこまで行けるか、錫杖キレットの通過しだいである。天気が良すぎるため、雪は溶け出しザラメ状となっていく。
やがて錫杖の森が見えてきた。細い尾根には多くの雪が残り、雪庇が張り出しており、この陽気で今にも崩れ落ちそうな雰囲気だ。
傾斜が落ち込んでいる手前まで下り様子を伺うと、前方は落ち込んだ崖なので、ザックを置きハーネスを付けてザイルを結び、セルフビレイをとる。どこを下るか様子を伺っていると、凹んだ急斜面からサラサラと表面の雪が流れ始めている。これで下から崖を回り込むことはできなくなったので、崖に下ってみるしかない。
嶋脇さんにビレイを頼み、空身で下って行く。崖には固定ロープがあったのでそれを伝って急な崖を下って行く。岩や草付きの所はアイゼンが効くが、雪は太陽に溶け出しているので、雪面にななると潜ってしまう。状態は極めて悪い。
30mいっぱい伸ばし、次のポイントを覗くと数mストンと切れ落ちており、その先は今にも崩れ落ちそうな雪庇が続いている。この雪庇が落ちてしまえば通過は楽なのであるが、この状況ではいつ崩れてもおかしくない。
残念であるが今回はここから引き返すしかないと、決定をする。嶋脇さんの所まで戻り、ここから引き返すことを伝え、この状態を嶋脇さんに見てもらうためザイルいっぱい下っていただく。
ヤバかったと言いながら戻ってきたので、とても残念ではあるが帰る準備をする。
1,078mピークまで戻ると、朝はかすんで遠く見えていた朝日岳が、霞が取れはっきりと美しい姿で望まれた。前方に見える白岩岳も遠い気がするが、1時間あれば着きそうだ。天気が良いので今日は夕日が見れそうなので、風が弱ければ頂上に泊まろうと思う。
腐れた雪は10cm程潜り重い。山頂は風も弱いので、木を起点にして整地して幕営する。テントを張り終えると、もうすでに17時になろうとしていた。
熱いコーヒーを飲み荷物を整理していると、回りの雲を赤く染めながら太陽が沈み始めた。もちろん入口は夕日に向けているので、ベンチレーターからゆっくりと沈みゆく夕日を眺めた。
頂上にテントを張ることも中々ないが、沈みゆく夕日を眺めていることもそうそうないので、ここで夕日を見れたことに感動する。
今日の夕食は、トマトとタラのムニエル、焼肉である。ムニエルができると、ビールを一人で乾杯する。嶋脇さんはアルコールを一滴も飲まないので酒の相手がいないのである。その分山を語り合う。明日は下山のみなのでゆっくりでもかまわない。
夜中にトイレに出ると霧雨になっていた。
白岩岳手前のテン場
白岩岳へ続く最後の登り
白岩岳山頂
白岩岳から白岩薬師、小滝山へ続く稜線
錫杖の森、小杉山から和賀岳に続く尾根
朝日岳(羽後朝日)
錫杖の森
錫杖キレットへの下り
錫杖キレット
錫杖の森から小杉山へ続く尾根
錫杖キレットへの下りから戻り口
朝日岳(羽後朝日)
錫杖の森側から見る白岩岳
錫杖の森、小杉山から和賀岳に続く尾根
朝日岳をバックに白岩岳で
白岩岳山頂からの夕日
白岩岳山頂からの夕日
タイム:テン場(7:20)→白岩岳(8:20〜30)→錫杖キレット下り口(10:45〜13:00)→白岩岳(16:15)
28日(霧雨のち曇り)
あさ起きるとテントの底には水が溜まっていた。霧雨が内張りを伝って流れたのである。もう内張りの季節が終わり、フライの季節になったようだ。
ゆっくりと朝食を食べ、テントを撤収する。これからの時期は雨が降るので、ジャケットを止めにしてカッパを持参していたので、さっそくカッパを着込む。
夏道合流点のピークを過ぎると、昨日の天気でだいぶ雪が消えていた。下るにしたがい雪が溶けてブッシュが出始めてきた。腐れかけた太いブナの木に見事なサルノコシカケを見つけた。
食料が減っているため荷物を分担しているのだが、雨の水分を吸ってか一向に軽くなってるとは思えない。時おり雪を踏み抜いては転びながら、急斜面を下ると抱返り渓谷の神の岩橋に着いた。
抱返り渓谷が始まる橋の付近の水は青色で深く、せせらぎは真っ白い波をたてて流れていた。神社にお参りをして車に着いた。
霧雨降る白岩岳山頂
見事なサルノコシカケ
神の岩橋
抱返り渓谷のせせらぎ
抱返神社
タイム:白岩岳(8:50)→夏道合流点(11:15)→抱返神社(14:40)
劇団わらび座がある「たざわこ芸術村」に行き、食事をして入浴する。下山してから入る温泉は最高であり、ゆっくりと3日間の汗を流す。
行くときに貝沢にデポした嶋脇さんの車を回収する頃には、もうすでに暗くなっていた。嶋脇さんとここで別れ、今回も敗退になってしまった登山を終える。
家に帰ると、私の帰りを待っていたかのように翌日の午前中に父が入院し、その翌早朝に逝ってしまった。山に入っていた時でなくて良かったとつくづく思った。 |