早池峰山縦走 ガイド登山 厳冬期の縦走は、風とラッセルの戦い!
 
早池峰山山頂
早池峰山山頂

2月7日(木)〜10日(日) メンバー:嶋脇様、小田中 智

 コース:岳〜避難小屋〜ニセ鶏頭〜鶏頭山〜中岳〜早池峰山〜頭垢離〜河原ノ坊〜岳


 嶋脇様より、冬の早池峰山縦走の依頼をいただいた。日程は4日間である。
 冬の早池峰山の縦走は工程が長く、中岳から鶏頭山の間はかなりのラッセルが予想される。登山者はまずいないと思われるので、当然ながらトレースは期待できない。
 コースとしては河原ノ坊から早池峰山を越え、中岳を経由して鶏頭山に縦走する方が楽であるが、山頂から吹雪かれた場合中岳までのルートファインディングが難しいことと、最終日はただの予備日にしかならない。
 条件しだいでは薬師岳登山のサプライズを考えて、逆コースを設定した。
1日目:岳〜ニセ鶏頭〜鶏頭山〜鞍部付近 テント泊
2日目:鞍部付近〜中岳〜早池峰山 避難小屋泊
3日目:早池峰山〜小田越〜薬師岳〜小田越 テント泊
4日目:小田越〜河原ノ坊〜岳
 あくまでも薬師岳登山は予備的であり、工程が予定どうりに消化できた場合である。
 嶋脇様とは昨年の春から同行させていただいており、行動力と体力は十分承知している。
 この縦走の成功のカギは、風の強さだけである。悪天はさほど問題ではない。

7日(曇りのち風雪)
 朝5時に矢巾で待ち合わせ、私の車で岳へ向かう。身支度を整え、スノーシューを履き出発する。
 登山届に記入すると、今年はちょこちょこと入山者の記入があり、トレースもついていた。鶏頭山はアプローチが短いため手軽に登れる冬山として人気なのだろう。
 トレースには昨日積もったとみられるフワフワの新雪が10cm程積もっている。尾根上に出ると風雪となり、風でトレースは消され、いよいよラッセルとなる。
 避難小屋でゆっくりと休み、ニセ鶏頭の岩場へと向かう。先週の好天のため下の層の雪が硬くなっており、30cm程度のラッセルだ。
 岩場の基部に着くと風は強さを増し、立ち止まるとよろつく位の強さだ。稜線に出るともっと強い突風になると思われるので、今日は無理をせず避難小屋に泊まることにする。日程的には予備日があるので、迷うことなく避難小屋へと下る。地図と磁石で読図の講習会をする。
 寝室用にゴアテックスのテントを張り、荷物を整理して熱いコーヒーを飲む。時間はまだ昼を過ぎたばかりなので、しばし昼寝をする。岩脇様は夜中に八戸からの移動のため睡眠不足だと言い、間もなくいびきが聞こえてきた。
 今夜のメニューは、ステーキと乾燥米である。今回は4日分の食料なので米だけは乾燥米とし、多少なりとも軽量化をはかった。
 昔、県外の縦走や壁の冬合宿では、ジフィーズ食品を使用したが、当時の乾燥食品はまずく、軽くするため我慢したものだ。それから30数年の時を過ぎた今の乾燥食品は、とても美味しくビックリである。
 ホットウイスキーを飲みながら山の話に花が咲く。外はだいぶ風が強くなってきたみたいだ。

登山口
登山口

歩き出しの樹林帯
歩き出しの樹林帯

ニセ鶏頭の岩場の基部
ニセ鶏頭の岩場の基部

タイム:岳(6:40)→避難小屋(9:50〜10:20)→岩場基部(12:00)→避難小屋(12:30)


8日(風雪)
 夜中にトイレに起きると風雪が強く、上空では轟音のような風の音がしている。
 4時に起床し外に出ると、天気は回復の兆しがなくゴーゴーと風が唸っている。食事をして様子をうかがうが、おさまりそうもないので再びシュラフに潜る。
 しばらくすると風はだいぶ収まってきたので出発する。昨日つけたトレースは新雪と風で消えていた。岩場の基部に着くと昨日よりも風は弱いので、鶏頭山の先へと行くことにする。
 鉄ハシゴは氷で覆われていたが、スノーシューの前爪を利用して慎重に登って行く。しだいに風が強くなってきたので目出帽をかぶる。
 稜線に出ると視界はそんなに悪くはないが風は冷たく、雪庇に注意しながら尾根の腹をトラバースしていく。
 鞍部からは雪が硬くなり、間もなく鶏頭山に着く。地図と磁石で方向を合わせてGPSの電源を入れ、風が強いのですぐに鞍部へと下って行く。視界は50m程であり、視界が悪い時には方向を正確に確認しないと迷いやすい所だ。
 鞍部からはラッセルとなり、今日の行動時間は15時30分と決めていたので、風の当たらない樹林帯にテント場を求める。今日は天気が悪く、余裕もなかったので写真は1枚も撮影しなかった。
 1,415mピークを過ぎた鞍部に良い場所があり、今日の宿泊地とする。しっかりと雪を踏みしめ、島脇様愛用のゴアテックステントを設営する。
 荷物が全部入ったテント内は狭いが、ガスコンロに火をつけるとテント内はすぐに暖かくなった。まずは熱いコーヒーを飲み体を温める。
 今夜のメニューは、塩ホルモンと赤飯である。美味しくホットウイスキーをいただき、水を作って早めにシュラフに潜る。
 ラジオを消すと、風の音とサラサラと雪がテントに落ちる音が聞こえる。明日は早池峰山山頂に立てることを祈りながら眠る。

タイム:避難小屋(9:30)→ニセ鶏頭(12:30)→鶏頭山(14:00)→1,400m付近(15:40)


9日(曇り時々晴れ)
 朝5時に起床し、出発の準備を整える。昨夜も新雪が積もり、昨日のトレースは消えていた。
 天気予報では今日は天気が良いはずであるが、中岳までのラッセルとそこから山頂までの風の強さが問題である。最悪の場合は中岳の先に泊まっても、翌日に早池峰山を登り岳へ下山することは可能である。
 新雪は柔らかく、膝下までのラッセルを交代しながら登って行く。尾根の頂部に出ると岩峰を巻くのが大変になるので、腹側を巻くようにコースどりをしていく。
 時々青空がのぞき、一瞬中岳が姿を見せたが、中岳はまだだいぶ先のように見えた。やがて露岩が出始めてくると雪が風で飛ばされ、硬い氷状となりラッセルから解放される。
 中岳付近まで来ると背丈が低い樹氷が一面に現れ美しい。ピークに立つと一瞬だけ真っ白い早池峰山の山容が現れた。地図と磁石で方向を合わせ、鞍部へと下って行く。早池峰山までラッセルもなく登って行けると思ったら、樹氷の間を通過する時に深く潜ってしまう。
 スノーシューが抜けないのでザックを降ろし抜け出す。歩き出すとまたハマってしまう。そんなことを繰りかえしていると体力の消耗が激しく、目の前に見えている鞍部になかなかたどり着けない。
 時間はすでに15時半を過ぎている。泊まるのであればここしかない。上部に行くと風が強くなり泊まる所は山頂の避難小屋以外にない。
 鞍部からの上部は雪が固く締まっているはずである。暗くなるまであと2時間弱、途中で暗くなり吹雪かれたとしてもその場所からなら迷わずヘットランプで歩けるので、山頂を目指すことにする。
 ようやく樹氷帯を抜けると、思ったとおり雪は硬く氷化していた。スノーシューの爪で滑らないので、アイゼンは履かずそのまま登って行く。
 時々薄日はさすが下の方の視界は悪く、晴れているのは1,700m以上の上空だけだと思われる。ここの登りで視界が良いのは助かった。嶋脇様に何か良いことをしたかと尋ねると「目の不自由な方の介助をした」とのことだった。
 最近は日が暮れるのがだいぶ遅くなってきた。高い所ではなおさらである。暗くなる寸前に見覚えのある岩峰が見えてきた。屋根だけ隠して雪に埋まった避難小屋が見えた。
 ヘットランプを出し、冬期入口から中に入る。寒さをしのぐためテントを張り炊事する。
 最終日のメニューは、卵焼きとイカの一夜干しとベーコン焼きである。疲れていたのでホットウイスキーは一杯だけにし、早々にシュラフに潜る。

1,468mピーク付近
1,468mピーク付近

樹間の間をぬって行く
樹間の間をぬって行く

中岳を望む
中岳を望む

中岳への登り
中岳への登り

中岳付近
中岳付近

中岳の先のピーク
中岳の先のピーク

早池峰山頂への稜線
早池峰山頂への稜線

中岳方向を振り返る
中岳方向を振り返る

1,696mピーク付近
1,696mピーク付近

タイム:1,400m付近(8:10)→中岳(14:30)→早池峰山(17:30)


10日(風雪のち晴れ)
 5時起床のつもりが1時間寝坊してしまった。急いで食事をして荷物の整理をする。テント内でのパッキングは時間がかかるが、広い小屋でのパッキングは楽だ。
 冬期入口の扉がしっかり締まるように雪を払い外に出ると、風雪ではあるが視界は良く青空も見えた。
 嶋脇様の冬期早池峰山縦走のスタイルをカメラに収め、地図と磁石で方向を合わせGPSのスイッチを入れる。
 今日は下りだけなので、下り口を間違えさえしなければ楽勝で下山できるはずであった。下山ルートを見出し下って行くと、雪の斜面が氷化しているではないか。
 下りが少し急になってくると、前向きの姿勢では危険度が高いので後ろ向きになり、ステップを刻みピッケルを刺す穴を開ける。嶋脇様はアイゼンを履くのが今回で3回目なので、とにかく作ったステップどおりに一歩いっぽ確実にゆっくりと下ってもらう。下るにしたがい氷はますます硬くなり、ピッケルの石付きがしっかり刺さらなくなったので、ピックを刺して下って行く。
 夏道どおりに下って行くが、なかなか先へは進まず時間だけが過ぎていく。しかし、打石付近まで下れば後は危険箇所はないので焦る必要もなく、一歩いっぽ確実に下っていただく。このコースでこんなに氷の斜面になるのは珍しい。先週の好天で溶けた雪が寒さで一気に凍ってしまったのであろう。
 頭垢離でゆっくり休み、スノーシューに履き替える。正面には薬師岳の山頂が雲の切れ間から覗いた。
 明日は祭日で連休なのであるが、登山者は誰も登って来ている様子はない。こんな天気の良い日にもったいないことだ。昨日までの天気が悪すぎたせいなのだろうか。
 ラッセルを交代しながら河原ノ坊に着くと、立派なトレースが付いており、ここまでは結構な人が入って来たようだ。
 今までどこの山頂も見えなかったが、ここで初めて早池峰山の山頂をじっくりと眺める。岳への道すがら、中岳と鶏頭山の頂きも見えた。ここを通って来たのかと思うと、感慨深いものがたちこめてきた。
 休まず林道を歩き、暗くなった頃岳の駐車場に着いた。車には20cm程の雪が積もっていた。

早池峰山山頂
早池峰山山頂

早池峰神社奥宮
早池峰神社奥宮

避難小屋
避難小屋

山頂方向の岩峰
山頂方向の岩峰

打石付近からの上部
打石付近からの上部

頭垢離の手前
頭垢離の手前

薬師岳
薬師岳

河原ノ坊から早池峰山を望む
河原ノ坊から早池峰山を望む

林道から早池峰山を望む
林道から早池峰山を望む

タイム:避難小屋(8:20)→頭垢離(13:40〜14:00)→河原ノ坊(15:30〜40)→岳(18:00)


★嶋脇様からのコメント
 夏の縦走登山は経験していたが、厳冬期の冬山縦走登山は、始めての体験だった。
 当初は天気、積雪の状況によっては、早池峰縦走は難しいと思っていたが、無事縦走をしたことがとても信じられない。
 最終日の頂上から河原ノ坊へ下る所が、自分としては一番疲れた。一つ間違えば、死ぬかもしれないという状況かつ、慣れないピッケル、アイゼンを使ったからだ。
 いつかは、叉、単独で早池峰厳冬期縦走登山を計画し、達成してみたい。それには、多くの経験や、コンパスを使っての地図読み、ピッケル、アイゼンワークなどの技術が必要だと思った。
 小田中ガイド、叉、厳しい御指導お願いします。
↑ページの先頭に戻る