岩手山山頂
3月3日(日)〜4日(月) メンバー:島脇様、小田中 智
コース:馬返し手前〜馬返し〜三合目〜大蔵石〜八合目避難小屋〜外輪〜岩手山 往復
厳冬期の岩手山を登頂したいとう依頼があったので、より確立の高い1泊2日で馬返しからの登山を提案した。
風と積雪の条件さえ整えば日帰りでも登ることはできるが確率は低く、八合目の避難小屋に泊まっての1泊2日であればかなりの高確率となる。
天気が悪くても小屋からのスタートであれば、風速15m以下の風であれば頂上に立てる。これは登る方の体力と技術にもよるが、嶋脇様であれば大丈夫だ。
3日(曇りのち風雪)
6時に柳沢で待ち合わせる。ゲートの先は除雪はしていないが、車の入った跡があるので入れる所まで入ることにする。通常は馬返しの中間まで除雪しているのであるが、吹き溜まりで手前までしか入れないため、ここに車を置く。
準備をしていると男女のパーティが先行して行った。スノーシューを付け出発すると新雪は10cm程積もっていた。馬返しで登山届けを提出し、先行者のトレースをたどる。
樹林体の枝の隙間からは太陽がのぞいている。天気は良さそうであるが、上空の木々は風でザワついている。
二合目を過ぎると風雪となり、先行者のトレースは消えかかっていた。三合目の手前で先行者が休んでいたのでラッセルのお礼を述べる。ここからは我々が先行しラッセルをする。
四合目の手前で追いついてきたので話をしていると、盛岡山総会の創立80周年記念式典に参加してくださった、都南山岳会の藤田さんだった。まったく世の中は狭いものである。
四合目からは露岩帯となるのでだいぶラッセルから解放される。五合目手前で、八戸から来たという単独の女性が追いついてきた。
五合目からは八戸の女性がラッセルを頑張ってくれた。天気は風雪となり、視界も悪くなってきた。七合目は風の通り道なのでますますの強風が予想される。
六合目の大蔵石で下山する日帰りパーティと別れ、嶋脇様とラッセルを交代しながら登って行く。天気は、七合目に近づくにしたがって風雪が強くなってきた。
七合目に着くと、頂上方面からのブリザードが吹きつけ、視界は20m程となった。ここは風の通り道で風が強く、それにともなって雪が飛ばされるのでブリザードになる所である。
登りは吹雪かれても左のハート谷への境の岩と、右の山頂からの斜面の低い所を行くと、八合目の避難小屋に着くのであるが、視界が悪い時の下山時には六合目に下る降り口が見つけづらい。
所々にあるダケカンバの小枝に、下山時のためのマーキングテープを結びつける。そこから15分ほど進むと八合目の避難小屋がボンヤリと見えた。
小屋には誰もいないので我々2人だけの貸切ホテルである。備え付けの毛布を借用して、持参したピンで小部屋を作ると、スペシャルルームの完成である。
まずは熱いコーヒーをすすると、冷え切った体が暖かくなった。炊事用の水を作り夕食の支度を始める。今夜のディナーはビーフシチューと前菜、クノールスープである。
まずはジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを煮込む。アクを取りながら40分程煮込んだ後、牛肉を煮込みながらまたアクを取る。1時間煮込んだ後、味を見ながらルーを入れる。できあがったシチューは、レストランで食べるビーフシチューなみの味である。
トマトと卵焼きの前菜とインスタントのクノールスープで、ディナーの始まりである。嶋脇様はアルコールは飲まないので、スープで乾杯する。嶋脇様からの味の評価は、「1,000円出しても良い」との評価をいただいた。
山で泊る時の楽しみは、なんと言ってもアルコールと食事である。私は単独の山行でも手作りの料理をして食べている。もしかすると、家で食べる食事よりも山では豪勢な食事をしているかもしれない。
今夜のホットウイスキーは格別の味である。食事しながら来週に登る向白神岳や山の話に花が咲く。まだ6時を過ぎたばかりであるが、疲れていたのでシュラフに潜る。
トイレに数度起きると、外からは吹き付ける強風の音が聞こえてくる。
タイム:柳沢と馬返しの中間付近(6:40)→馬返し(7:30〜45)→三合目(9:30〜40))→六合目(11:30〜40))→
八合目避難小屋(13:50)
歩き出し
馬返し
二合目付近
五合目手前の先行者
五合目付近
4日(風雪のち晴れ)
5時に起きると、吹きつける風の音は昨夜と比べるとだいぶ弱くなっていた。日本そばとピラフの朝食を食べ、荷物の整理とスペシャルルームの撤収をする。
ザックには、シュラフ、マット、コンロ、ツエルト、食料を入れ、不要の物は袋に入れて小屋に置く。掃除をして小屋の外に出る。
外は風が弱いが視界は悪い。アイゼンを付けピッケルとストックを持ち、外輪を目指して真っ直ぐに登って行く。視界は10m程であるが、真っ直ぐに上を目指して登って行くと外輪に着くのである。
高度を増すごとに風が強くなってきた。外輪に着くと視界は30m、風速は10m程となった。下りの目印にマーキングテープをエビのシッポに結ぶ。帰りも視界が悪ければ、ここを基点として、地図と磁石により方向を合わせ、真っ直ぐ八合目の小屋に下るのである。
今回は、「故 杉村君」に花をたむける目的もあったので、右回りで山頂を目指す。レリーフに近づくにしたがって天気は良くなり、外輪の中にそびえる妙高岳が見え隠れし、上空には青空も見えてきた。しかし風は強くなり、風速15mはあろうかと思われる。
レリーフのある大岩に着いたが、風が強いためレリーフへのトラバースは大変なので、大岩で杉村君に花をたむけ手を合わせる。嶋脇様にも手を合わせていただく。
「故 杉村 由孝君」は、22年前の11月に訓練山行中、仲間とはぐれ凍死ししてしまったのである。手を合わせているあいだ、走馬灯のように一緒に登った時の情景がよぎっていった。
そうすると空が開け、視界がよくなり風もおさまってきた。まるで杉村くんが喜んでくれているかのようだ。右の斜面の彼方には八幡平市が一望のもとに、妙高岳や山頂が青空の中に浮かんで見えている。杉村よありがとう!
外輪をたどり山頂の手前で屏風尾根が見えた。洞ヶ沢を登ると屏風尾根の三峰に出るのであるが、今年は雪が多いらしく岩には雪がかぶっている。
山頂に着き、嶋脇様と握手を交わす。今回も嶋脇様と一緒に頂上を踏むことができた。こんな快晴の天気は、朝の天気からは予想もしていなかったのでとても嬉しい。
快晴で濃い青の空と雪の白、青と白のコントラストがまぶしい。屏風尾根の左には黒倉山の東壁がそびえ、その延長にはギザギザの鬼ヶ城の稜線が不動平へと続いている。
なんと素晴らしい景色なのだろうか。こんな光景は冬山では滅多に見ることができないが、今日はすごく感動の連続である。やはり、冬山は素晴らしい。
天気も良いので外輪を一周しながら景色に見とれる。登る時に付けたマーキングを撤収して、下に見える八合目の小屋を目指して下って行く。
朝出発してから今までゆっくり休まなかったので、太陽の光を浴びながらゆっくりと休む。残しておいた荷物をザックに入れ、名残惜しい光景に別れを告げる。
大蔵石を過ぎると風もなくなり、もう春山の陽気だ。山も少しずつ春に向かっているようだ。三合目の上で夏道から左にはずれたが、雪をこぎながら下るのもまた楽しい。
外輪から見る妙高岳
山頂へ向かう外輪
レリーフがある大岩
大岩での嶋脇様
雲が流れる山頂
屏風尾根
岩手山山頂
山頂に立つ嶋脇様
黒倉山東壁
黒倉山と屏風尾根
振り返った山頂
妙高岳
鬼ヶ城の稜線
山頂と妙高岳
外輪からの下り
八合目避難小屋
鬼ヶ城最高点からの延長稜線
小屋から望む外輪
七合目付近
馬返しから望む岩手山
お山の湯へ向かう途中からの岩手山
タイム:八合目小屋(7:10)→外輪(7:50)→岩手山山頂(8:40〜50)→八合目小屋(10:15〜50)→馬返し(13:20〜30)
→車(14:00)
★嶋脇様からの声
岩手山の厳冬期一泊登山は憧れだった、深いラッセルとの格闘、厳しい寒さとの戦いなど、やっぱり登山は雪がある時期が面白いと改めて感じた。
残念なのは、頂上付近で手袋を暴風で飛ばし無くしてしまったことだ。ま、こういった苦い経験をし、同じようなことをおこさないように自分なりに道具にも細工をしようと思った。
そして、来年は単独で冬に岩手山に挑戦してみたいという目標ができた。
風呂に入るため柳沢から網張に向かい、「滝沢相の沢温泉 お山の湯」で汗を流す。山の帰りにゆっくりと浸かるお湯は気持ちがいい。
風呂に浸かっているとどこかで見たような人がいた。風呂から上がり休憩室で、携帯で検索しその方の写真を見た。やはり似ている。
思いきって尋ねると、やはり「福田こうへい」さんだった。奥さんと2人の子供さんと家族でのんびりしているみたいだ。
なんとラッキーなことだろう。しかし、残念ながらサインをしていただくものがなかったので、握手をしていただき少し話をする。
「福田こうへい」さんは、盛岡市の玉山区に住んでおり、民謡大会で数々の賞を獲得し、「南部蝉しぐれ」がヒットし、オリコン演歌チャート週間ランキング1位という歌手である。
山といい、下山後の下界といい、今日はとても素晴らしい一日だった。とりわけ何も良いことはしていないのであるが……。
歌手 福田こうへい さん
→オフィシャルサイト
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