谷川岳一ノ倉沢 凹状岩壁・衝立岩雲稜第一

衝立岩と烏帽子沢奥壁 イメージ

1980年9月21日〜23日
 パーティ/L 小田中 智、外口 順一

 谷川岳一ノ倉沢は、本谷からルンゼとスラブ、岩壁部で構成され、数多くの登攀ルートがあり、日本の3大岩壁の一つに数えられている。
 本谷に入ると一番手前にはオーバーハング帯の衝立岩が覆い被さるように迫ってくる。その奥には烏帽子沢奥壁と本谷ルンゼ、本谷の左側には二ノ沢右壁、中央壁、滝沢スラブ。衝立岩の陰にはコップ状岩壁がある。
 今まで烏帽子沢奥壁の3級から4級ルートを登っていたので、今回の目標をオーバーハングが連続する衝立岩とした。

 砂子、清水は、栃木国体のためザイルを組めないので、今育ち盛りの外口とザイルを組むことにした。 9月21日
午後の特急で盛岡を発ち、上野で高崎線に乗り換え、土合に向かう。

9月22日(曇り)
 凹状岩壁は、烏帽子沢奥壁右端の凹状部をダイレクトに登るルートである。冬期登攀を目的として開拓されたルートで、一部を除いてはフリーで登り、快適なルートである。
 3時過ぎに土合に着き、長い地下の階段を30分もかかって登り、車道を歩いて一ノ倉沢出合いに着く。
 出合いにツエルトを張って、サブザックで取付きへ向かう。テールリッジで外のパーティを追い抜き、凹状岩壁取付きは一番乗りとなる。ルートによっては順番待ちとなり、遅いパーティの後になったものでは日が暮れてしまう。
 小田中トップで登り出し、つるべ式で登る。2ピッチ目は階段状のフェースで、中央カンテと同ルートである。 3ピッチ目は簡単なスラブで、4ピッチ目から垂壁の凹状壁となり、このルートの核心部が始まり、外口がトップで登り出す。
 水流で洗われたツルツルの凹状部は、細かいホールド、スタンスで難しいが、外口の持ち前のバランスで軽快に越えて行った。
 5ピッチ目は右のカンテを越えて右上のハングの切れ目からフリーで越え、垂直のフレークからテラスへ行き、左の凹角を登り、核心部を終える。
 簡単な草付きの凹状部からフレーク状のクラックを登り、8ピッチ3時間で登攀を終了する。
フェース、スラブとも岩は硬く、快適なルートだった。
 衝立の頭へ踏み跡をたどり、北稜の下降点を探す。衝立の頭に立つと、コップ状岩壁が大きな姿で目前に見え、すごい迫力だ。
 北稜は6回の懸垂下降で下り、コップスラブの下に出る。略奪点から下に向かってブッシュの踏み跡をたどり、衝立前沢を下り、ヒョングリ滝の高巻き道の下に出る。
 これで明日はいよいよ衝立岩の登攀だ。雨でないことを祈る。谷川岳はいつも雨にたたられている。
凹状岩壁ルート図


テールリッジと衝立岩


凹状岩壁中間部 イメージ

コース/一ノ倉沢出合〜テールリッジ〜凹状岩壁〜衝立の頭〜北稜下降〜略奪点〜一ノ倉沢出合


9月22日(曇り)
 衝立岩雲稜第一ルートは、衝立岩のほぼ中央部を登る正面壁のルートで、巧にハングの弱点をつきながら登る衝立岩の初登ルートで、日本でも代表的な人工ルートである。
 ヘッドランプを点けてテールリッジに向かう。取付きでトップをとるべく、テールリッジを急いで登る。
 テールリッジの中央稜取付き基部から右の衝立スラブへトラバースし、草付きの踏み跡をたどると、アンザイレンテラスに着く。
 小田中トップで細かい凹角を直上する。2ピッチ目は外口がトップで凹角からハング下を右にトラバースし、第1ハングを越す。
 3ピッチ目、凹角から白い岩の下を右上気味に登り、第2ハングを右へ越す。アブミの回収時に足下をのぞくと、ハングになっているため足下の壁は見えず、ずっと下の衝立スラブが見え、高度感がすごく、身がすくむ。
 4ピッチ目、もろい岩場を左上し凹角に入る。5ピッチ目、凹状部のハーケンラダーから傾斜の弱い第3ハングを越す。
 6ピッチ目、湿った凹角をフリーで登り、凹角から洞穴ハングを乗り越して核心部を終了する。
 チムニー状からルンゼ状、階段状のフェースを登って10ピッチで登攀終了する。
 フェースからハングへと4つのハングを乗り越し、高度感と緊張感、そして冷や汗の連続だったが、登った後の充実感を更に満たしてくれた登攀だった。
 地元の猿岩でのトレーニングでは技術面は補えるとしても、この壁の大きさの重圧感と精神的なプレッシャーは、本チャンの壁でしか味わうことはできない。
 衝立の頭から昨日下った北稜を下り、一ノ倉沢出合に戻る。休む間もなく荷物をまとめ、下山する。
衝立岩雲稜第一ルート図


衝立岩雲稜第1第一ハング イメージ

コース/一ノ倉沢出合〜テールリッジ〜衝立岩雲稜ルート〜衝立の頭〜北稜下降〜一ノ倉沢出合

                             盛岡山想会山懐10号より掲載 記:小田中 智
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