奥鐘山西壁 京都ルート・OCCルート


奥鐘山 イメージ

1983年4月28日〜5月5日
 パーティ/L 小田中 智、千葉 健吉、上野 幸人

 雲表倶楽部の藤原さんの影響を受け、未知の岩壁である奥鐘の大岩壁に行くことにする。
 奥鐘山は、黒部川上流域の下ノ廊下の一つの側壁で、高差400m、巾500mに及ぶ日本で最大級の岩壁である。その中でも西壁は、オーバーハングが連続する花崗岩質で、ピッチ数も多く、グレードの高いルートが多い。
 この山域は会では初めて入る所である。情報は、東京に行っている砂子から聞き、千葉と上野の3人で行くことにした。
 入山の5日前に尾てい骨を骨折したが、歩いたり登ることには支障がなかったので行くことにした。壁を登った後の下降は、京都ルートを下降するので、下降ルートの偵察と壁慣れの意味もあり、1本目を京都ルートとした。
 2本目は、正面壁の中で代表的なOCCルートを登り、京都ルートを下降することにした。

9月12日
 20時頃、盛岡を車で出発し、仙台・宮城で高速道を下り、笹谷峠から新潟に出る。2時間交替で夜通し走るが、座席に寄りかかると骨折した尾てい骨が痛いので、前屈みになりながら助手席に座り、ナビゲートする。夜半から大雨が降り出した。

9月13日(曇り)
 宇奈月温泉に5時頃着き、登山電車を待つ。朝一番の黒部峡谷登山電車に乗り、終点の欅平で降りる。山はすでにうっすらと色づき始め、さぞかし紅葉時には、この登山電車も混雑することだろう。
 黒部川に下り、そ行して行くが、深い所では胸まで入り、泳げない者は必死になって水をこいでいた。
 1時間ほど歩くと奥鐘の前衛壁から西壁が見え、スケールの大きさに圧倒される。正面壁の下の岩小屋が空いていたので、これからのベースとする。
 壁の取付きへは急流を徒渉しなければならないので、明日のため
奥金山概念図
偵察する。急流は腰まで入るので、下手をすると流されてしまう。
 岩小屋で流木を集めて火をたき、衣類を乾かし、たき火を囲んで軽く飲む。


西壁下部岸壁 イメージ


アプローチの黒部川

コース/欅平〜黒部川〜岩小屋


9月14日(曇り時々晴れ)
 朝、明るくなる頃、素っ裸になり、急流を腰まで浸かり徒渉する。朝一番の水浴びは冷たい。
 京都ルートは正面壁のやや右に位置し、ハングの乗り越しが多いルートで、下降ルートとしても使われている。
 5ピッチずつトップを交替することにし、小田中リードで登り出す。セカンド、ラストは5mの間隔を開け、同時に登る。 
 2ピッチ目の草付きはぬれていて嫌らしく、大分時間がかかってしまう。4ピッチ目はスラブから第1ハングであるが、出口の手前でハーケンが抜け、5mほど墜落し宙づりとなるが、幸い、尾てい骨には問題がなかった。
 トップを上野に交替して、第1ハングから第2ハングを越す。ハングの人工が多く、腕力勝負である。
 下部のぬれたフリーとハングの乗り越しで、思ったより時間をくってしまい、5ピッチを登った時には既に昼を過ぎていた。明日のOCCルートのためここまでとし、下降する。
 始めての大岩壁でもあり、中途半端な登り方ではあったが、壁に慣れるためには良いトレーニングになった。
京都ルート図


京都ルート イメージ

コース/岩小屋〜京都ルート〜5ピッチ終了点〜下降〜岩小屋


9月15日(曇り時々晴)
 今日も朝早くからの水浴びで、寒くてブルブルする。
 OCCルートは正面壁のほぼ中央に位置し、早くに開拓されたポピュラーなルートで、下部は草付きが多いルートだ。
 6ピッチずつトップを交替し、セカンド、ラストは同時に登ることにして、千葉トップで登り出す。 
 第1ハングまでは草付きが多いが、さすがハング帯に入ると草付きもなくなり快適な登攀となる。
 大テラスで7ピッチ目のトップを上野に交替し、草付きフェースを登る。しばらく草付きフェースを登り、マユ毛ハングの下の垂壁でハーケンが抜け、3mほど墜落する。けがはなく、そのまま上野がトップで登り、トマリ木ハングを越えた所で小田中にトップを交替する。
 いよいよルートも上部になってきたが、夕方になってきており、登りきる前に暗くなってしまいそうだ。スラブを急いで登るが最終2ピッチ手前で暗くなってしまい、ヘッドランプを出して登る。
 難しいフリー部分は終わっており、最後の3段ハングはボルトラダーなので気分的に楽だ。
 真っ暗な中でハングにぶら下がっていると、1人別世界にいるみたいで怖く、その気持ちを振り切って、次のボルト、そして次のボルトへとアブミを掛け替えていく。
 最後のビレー点は、ブッシュに入る前のバンドで、足元も安定しており、一安心しながら千葉、上野を迎える。16ピツチを終了したのは20時になっていた。
 踏み跡がしっかりしたブッシュ帯を右にトラバースして、京都ルートの下降点を探すが見つからず、右の尾根の平らな所を探してビバークする。
 お泊まりセットは何もないので、着の身着のままで寝る。


OCCルート図

OCCルート マユ毛ハング付近


OCC終了点

コース/岩小屋〜OCCルート〜終了点〜右の尾根筋


9月16日(晴)
早朝、昨日に近藤・吉野ルートを登っていた京都登攀クラブのパーティと一緒になり、京都ルートを一緒に下ることにし下降点を探す。
 ザイルは我々のを使い、小田中先頭で下降開始。出だしから空中懸垂で最初はビビルが、次第に慣れてきた。
 3回目の下降時、支点が10m下にもあったが、上の支点を使った。下をのぞくとハングでザイルの末端が見えない。もしもザイルが届いていないことを考えて、京都パーティに笛の合図で下の支点から下るように頼んで下降する。5mも下ると空中懸垂となる。
 下降するにしたがって、ザイルの末端が支点に届いていないことが分かった。壁から5mも離れ、宙に浮かんでいる状態である。
 最近は末端を結ぶのが面倒で、末端を結んでいなく、手が滑ったら300mも墜落してしまう。支点は5m下にあり、ザイルを放して飛び降りたくなるが、うまくいくはずもない。
 ザイルの末端まであと2mしかないので、まずは落ち着いて、口と歯を使いながら末端を結ぶ。次にザイルからプルージックをハーネスのメインカラビナに結び、ザイル末端をエイト環に結びつけて、一安心する。
 しかし、身体は宙に浮いたままなので、5mを振り子してルートのボルトラダーの支点につかまらなければならない。身体を振るがなかなか振れなく、辛抱強く宙を泳いでやっと揺れ始め、更に振ってボルトにしがみ付き、セルフビレーをとる。
 上に笛の合図を送り、別のザイルで下りてもらう。
 12回の懸垂下降で河原に着いた。「懸垂下降する時は、末端処理をする」という基本を守ることを、身にしみて味わった。
 河原で昼食をゆっくり味わい、ベースを撤収して下山する。


京都ルート空中懸垂

コース/尾根筋〜京都ルート下降〜岩小屋〜欅平

 宇奈月温泉を夕方に発ち、一晩走って17日早朝盛岡に着く。

                            盛岡山想会山懐10号より掲載 記:小田中  智
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